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D.C.half
工藤ルート 2
玲夢に電話をいれ、粥を食うように命じた俺は工藤を案内していた。
「ここが、白河音楽店。純一さんの知り合いがやってる店だってさ。」
「へぇ・・・。けっこう大き目の店なんだな。」
店の前で掃除をしていた女性がこちらに気づく。
「あれ・・・?桜木君だ。こんちわ。」
「一ヶ月ぶりですね、ことりさん。お久しぶりです。」
俺は、その女性に会釈する。
彼女は、白河ことり。
トレードマークの帽子をかぶっていれば、どこでも目立つ。
顔よし、スタイル良し、気立ても良しの三拍子をかねそろえたアイドルのような人で、かつてはミス風見学園に三度も選ばれているという伝説の人物だ。
「ひさしぶりね。今日はどういった用件?」
「こいつのベースを見てやってほしいんですよ。」
そういって、俺は工藤の背中を押す。
「あれ?叶ちゃんの家の・・・?」
「あ。ことりさんの家のことだったんですか・・・。」
工藤が驚いたようにことりさんを見る。
「なんだ、知り合いだったのか?」
「知り合いって言うか、お母様の親友だ。小さい頃は、よくかまってもらっていたんだ。」
ことりさんもその通りと言うように首を振っている。
「まぁ、叶ちゃんが本土の方に仕事で行ってるから、ここしばらくあってなかったけどね。」
「へぇ・・・。なんか、意外ですね。」
ことりさんと工藤。ふたりの意外な関係に驚く俺だった。

「じゃあ、明日取りに来て。それまでに仕上げるから。」
「はい。ありがとうございました。」
工藤と俺はことりさんに頭を下げて店を出る。
「あー、肩こったー。」
工藤は肩をぐるぐると回して、肩の疲れを取る。
「うわー、親父くせー。外見の中身の違いってすごいな。」
「そうか?俺はあんまり気にしたことないけどな。」
工藤はそれだけ言ってくすりと微笑む。
その顔が一瞬かわいらしく見え、どきりとする。
「ん?どうした?なんか、具合でも悪いのか?」
そんな俺の様子を知ってか知らずか、工藤は顔を覗き込んでくる。
「べ、べつに平気だって。」
「いや、だって、普段の桜木ならさっきの発言にコンマ五秒で反応して反論だろ。」
工藤の顔を見ないように顔をそむけたのに、回り込まれる。
「うるせ。それより、おごりの件はどうした。」
「ん?ああ。それか。行きつけのファミレスでいいか?」
工藤が思い出して前に向き直る。
俺は、こっそり息を吐き出した。
(あぶね〜。あやうく怪しい小道に入りそうだった・・・。)
変な方向に行こうとする自分を心の中でぶん殴りながら工藤の後ろに並んで歩いていく。
「そういえば、工藤って兄弟いたっけか?」
「いきなりなんだよ。へんなヤツだな。」
工藤が笑いながら俺を見る。
「いるよ。双子の妹が1人だけ。」
「へぇ・・・。きっと、お前に似て美少女なんだろう?」
俺がちゃかすように言うと、工藤はにやりと笑った。
「当たり前だ。どうだ?うらやましいか?」
「あいにく、玲夢だけで手一杯だ。」
俺も笑い返すと、お互いに耐えられなくなって噴出してしまう。
そうこうしているうちにファミレスにたどり着いた。

「カツ丼の若干汁多め、タマゴとカツの比率が4:6になるようにお願いします。」
俺は店員さんにそれだけ頼むと、工藤を待った。
「あ、俺はしょうが焼き定食のキャべツ少な目をお願いします。」
工藤が注文を言い終えると店員はおしとやかに微笑んで去っていった。
「・・・カツとタマゴの比率を注文するヤツなんか、初めて見たよ。」
工藤が呆れ気味に笑う。
「しょうがないだろ?ポリシーなんだから。」
俺は、カツ丼は卵とカツの比率で味が決まると考えている。
タマゴが多すぎると、カツの衣の味わいが変化するのだ。
かといって、タマゴが少ないとカツのせっかく閉じ込めた肉汁が熱せられて抜けてしまう。
ゆえに、玲夢に呆れられながらも究極の比率を探していたのだ。
そして、たどり着いた答えこそ、4:6だ。
タマゴが完全に覆うわけでもなく、かといって覆わないわけでもない。
かりっとしたカツの食感はそのままに、しっとりとした感触を生むベストな比率だ。
「お待たせいたしました。カツ丼でございます。」
店員さんが目の前にカツ丼を置いてくれる。
「おお!待ってました!」
俺は、箸を割るとさっそく食べ始めた。
「はぐっ・・・。うーん!うまい!やっぱ、プロは違うよな〜。」
「あ、俺のも来たみたいだ。」
工藤の前にしょうが焼き定食が置かれる。
「んじゃ、いただきます。」
そういって工藤は手を合わせて祈るように目を閉じた後、箸を割って食べ始めた。

「ふぅ・・・チェーン店のファミレスにしてはうまかったなぁ。」
「だろう?俺もたまに行くんだよ。あそこ。」
工藤といっしょに桜並木を歩いて我が家を目指す。
本来なら男二人の悲しさを感じてもいいのだろうが、工藤といるとどうでも良くなってくる。
むしろ、女子が混じるよりも息苦しくなく楽かもしれない。
ふと、どこからか良い匂いがした。おそらくシトラス系の、シャンプーの香り。
「・・・なぁ、工藤。お前って、女物のシャンプー使ってる?」
「ん?ああ。俺のが無くてさ。妹のを借りたんだ。・・・そんなに匂うか?」
工藤が男子にあるまじきさらさらの前髪をいじりながら聞いてくる。
「まぁ、それなりにな。」
俺個人の意見で言えば、シトラスの香りのする男子というのはちょっと避けたいが。
しかし、工藤にはそれが似合っていたりするのだ。
「ま、お前はかわいい顔してるからな。」
「っ!?」
俺が言った言葉に工藤が過剰反応する。
頬を真っ赤に染め、驚いたようにビクッっと動く。
「?どうした?」
「あのさ、男子に向かってかわいいとか言うなよ。気持ち悪いぞ。」
赤面しながらも、工藤がいつもの声で話してくる。
「わり。言っとくが、“そっち”はないからな。」
俺も素直に頭を下げる。正直に謝ったほうが工藤のためだと思えたからだ。
工藤は、たまに顔と声があっていないことがある。
顔は怒っているのに声はやけに冷静だったり。
今のように赤面しながら怒ったような声を出すときもある。
そういう時にそれを追求すると、一ヶ月くらい口を聞いてもらえなくなるのだ。
「・・・・クスッ」
その後、工藤が嬉しそうに微笑んだような気がした。

「んじゃ、俺は学校に行くからな。しっかり寝ているように。」
「はーい。」
眠そうな玲夢を居間に残して、家から出る。
「あれ?桜木じゃないか。」
「え、工藤?お前って、島の向こう側じゃなかったか?」
家から出たところで工藤と出会う。
島の向こう側に住む工藤とは、学校周辺で出会うのがデフォルトだ。
「家の用事で、親戚の家に泊まってたんだ。一緒に行こうぜ。」
「ああ。」
そういって、二人で歩き出す。
「そういや、最近お前と二人だけってのが珍しくなくなったな。」
「たしかに。遭遇率が多くなってるよな。この前の楽器店の時とか。」
工藤との出会う回数が増えているのは事実だった。
まぁ、杉並といるより気分がいいし、工藤と一緒だと楽しいことが多い。
なんだかんだで、現状にかなり満足している俺だった。
「そういえばさ、桜木。卒パのライブなんだけどさ。」
「ああ、それか。」
工藤の言葉に、それを思い出す。
俺と工藤はとあるバンドに入っている。卒業パーティに行なわれる「バンドフェスティバル」という催しに毎年参加してきたのだ。
他のバンドと違うところは、その時しかライブをやらないことだろう。
実際、工藤や俺の個人の意識が強すぎて一回しかやらなくていいからだ。
「曲、どうする?既存の曲にするか、オリジナルにするか・・・。」
「既存だろ。今から作ってたんじゃ間に合わないし、誰が作るんだよ。」
工藤の的確な発言にうなずく。
うちのバンドのメンバーが、作曲できるほど感性豊かであるはずが無い。
「んじゃ、今日の放課後でも集まって決めるか。」
「そうだな。」
そういって、俺たちは桜並木を歩いていた。
「桜木せんぱーい!工藤せんぱーい!」
「ん?真弓・・・?」
後ろからかけられた声に立ち止まると、真弓がこちらに走ってきていた。
「なんか、尻尾が見える。」
「忠犬だな、忠犬。」
工藤と俺はそれぞれの感想を述べつつ、真弓を待つ。
「よぉ、真弓。どうかしたのか?そんなに慌てて。」
「これが慌てずにいられますか!もう遅刻確定なんですよ!!」
真弓があせりながらまた走り出そうとする。
「ええっ!?そんなに遅くなってたのか!?」
家を出たとき時間を確認したが、いつもどおり授業開始の一時間前に出たはずだ。
心配になって携帯を取り出そうとするが、それよりも早く工藤が苦笑する。
「水越さん、腕時計見てたんだよね?」
「はい・・・。もう、お母さんの拳骨確定・・・。」
真弓が悲しそうに下を見る。
犬が耳をたれてうつむいてるように見えてほほえましい。
「その時計、止まってるよ。ほら。」
そういって工藤は時代錯誤な懐中時計を見せる。
「・・・あ、本当だ。まだまだ余裕だ。」
真弓が安心して胸をなでおろす。
「ったく、あせったじゃないか。」
「うう、面目ないです。」
そのまま、三人で学校に向かう。
「しっかし、工藤って懐中時計なんかもってるのか?」
俺は、さっきの時計が気になって工藤に話しかける。
「まぁな。昔から懐中時計にあこがれててさ、この前ようやっと買ったんだ。」
いいだろ、と工藤がそれをもう一度取り出す。
「へぇ〜。」
なんとなく、工藤のイメージは大正だ。
学ランに学生帽かぶってマントを羽織ってそうなイメージがある。
「工藤先輩って、なんか趣味が渋いですよね・・・」
真弓が不思議そうに工藤を見つめる。
「そうかな?まぁ、地味なのは認めるけど。」
実際、工藤の趣味はそれほど渋いわけではない。
茶道とか華道とか剣道とか・・・・そういう、日本古来のもの。
まぁ、普通にベースも弾けるのでそういう趣味ばかりではないが。
「工藤先輩は和の雰囲気をもつところが人気なんですよ?」
「あー、たしかに。女子はそういうの好きなやついるかもな〜。」
真弓の言葉に思わず納得してしまう。
男子が大和撫子に惹かれるのと同じ理由だ。
「はいはい。もうその話はいーから。ちょっと急ごうぜ。長話しすぎた。」
工藤はそういうと駆け出して行ってしまう。
「あ、待てよ工藤!!」
俺と真弓は、その後を追いかけて行ったのだった。

「ふぅ・・・。」
学校の帰り道、俺はひとりで帰っていた。
放課後のバンド練習はすでに行なわれ、曲も決まった。
いいこと尽くめのはずなのに、
「隣がさびしいな・・・。」
ぼやいて、周りを見渡す。
周りには、カップルやら親友同志やらで二人で帰る連中が多い。
本来なら玲夢が隣にいる可能性があるものの、基本的に1人で帰ることが多い。
「・・・工藤でもいればなぁ・・・。」
軽くつぶやいて、はっとする。
(いや、おかしい。今の発言は間違いなくおかしい。本来なら、「彼女でもいればなぁ・・・」のハズッ!?)
変な考えを追い払うために頭を殴っていると、水が額に落ちる。
「げっ!?雨か?」
見上げた空は黒い雲に覆われ、見る間に雨が本降りになる。
「くそっ、傘持ってきてないっつぅの!!」
俺は、そう叫んで雨宿りできそうな場所を探しながら走り出す。
公園の笠つきのベンチを見つけてそこに駆け込む。
「ったく・・・ついてねぇなぁ・・・・」
やみそうに無い雨をにらみながら、呻く。
(どうする?玲夢に傘を・・・いや、病人を雨の中に出すわけには・・・)
そんなことを悩みながらベンチに腰を下ろす。
「あの・・・雨宿りですか?」
「え?」
振り向くと、女の子がいた。
綺麗な黒髪を肩まで伸ばし、雨に濡れて光っている。
どこか、凛としたもののある顔立ち。
典型的な美少女だった。
「ええ、まぁ・・・」
「でしたら、お話しませんか?1人で待つよりも、お話していたほうが楽ですから。」
そういって、少女は嬉しそうに手を合わせた。

「へぇ・・・それは災難だったね。」
「ええ。天気予報では雨ではなかったのですけれど・・・。」
彼女は、そういって微笑した。
少女はどうやら買い物に出てきていたらしいのだが、雨に降られてここに逃げ込んだらしい。
「服が厚いものなら良かったのですけれど、薄めの物を着てしまったので、濡れて帰るわけにも・・・」
ごもっともだ。こんな綺麗な子が服を透けて歩いていたら襲われる。
「にしても、止まないなぁ・・・。テルテル坊主でもつくろうか?」
「それはいいですね。けれど、歌は二番までですよ。」
意味ありげに少女は微笑むとかばんからティッシュを取り出した。
「どうして、二番までなんだ?そもそも、三番ってあったっけ?」
ティッシュを受け取って、テルテル坊主を作りながら聞く。
「テルテル坊主の歌は、三番がまでですよ。内容が残酷なので、出来れば歌いたくないんです。」
「残酷?」
丸めたティッシュを包んで作ったテルテル坊主に持ち合わせたゴムを掛ける。
「はい。晴れにならなかったら首をちょん切るぞ、と脅しているんです。」
「こわっ!?」
知らなかった。日本の童話や歌って怖い・・・。
「とかなんとか言ってるうちに完成。」
そういって、テルテル坊主に目を入れる。
お約束のスマイリーマーク。目も口もにっこにこだ。
「かわいいですね。」
「どこにでもあるようなものしか作れないな。」
俺は、そういってテルテル坊主を差し出す。
「十分、かわいらしいですよ。」
そういって彼女はそのテルテル坊主をかばんにくくりつける。
ただのテルテル坊主がかわいいアクセサリーのように見えるから不思議だ。
「大事にしますね。」
そういって、うれしそうにかばんを見せてくる。
不思議な少女だった。
初対面の俺に平然と話しかけてきている時点で変だが、なによりどことなく浮世離れしている気がする。
まるで、雨の精霊のようだ。
「って、雨止んできたな・・・。テルテル坊主すげー。」
「本当ですね・・・。」
そういって、空を眺める。
「では、私はこれで。」
そういって、彼女が立ち上がる。
「ああ。楽しかったよ。気をつけて。」
「はい。それでは、ごきげんよう。桜木さん。」
そういって、彼女は立ち去っていった。
「んじゃ、俺も帰るか・・・。」
そう言って、かばんを取りかけてふと気づく。
「あれ・・・?俺、名前教えたっけ?」


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