[携帯モード] [URL送信]

D.C.half
2月28日(日) 玲夢ルート
二月二十八日(日)

「…っと、もう朝か。」
珍しく寝過ごしてしまったようだ。すでに太陽が出ている。
「おし、起きるか。」

「あ、兄さん。おはよー。」
「さ、桜木先輩!今すぐご飯を!」
居間に踏み込むと、玲夢の足にすがりつく形で真弓が引き止めていた。
「お、おお。」
真弓のあまりの剣幕にとっさにキッチンに入って調理する。
「あ、兄さん!私が料理する気だったのに!」
玲夢が残念そうに俺をにらみつけてくる。
「桜木先輩が来てくれて助かりました。あのままでは、朝から死ぬところです…。」
…これは真弓に何か奢らないとだめだな。命の恩人だ。
「おし、玲夢のことは置いといて、何が食いたい?」
「あ、私はハムエッグでお願いします。あとバナナシェイクも出来れば。」
「うー…。じゃあ、オムレツ。」
「はいよー。」
そう言って俺はいつもより一人分多く朝食を作るのだった。

「あれ?桜木じゃんか。」
「おお?そこにいるのはMY同士、桜木ではないか。」
「よぉ、工藤。」
息抜きがてら桜公園に来ていた俺は、偶然にも工藤と出会った。
「お前も暇なのか?」
「まぁ、勉強にも飽きたから息抜きだな。というか、桜木は勉強しないのか?」
「それ以前に俺は無視か?」
「ああ、俺も一息ついたところだから出てきたんだ。」
杉並は無視して工藤と会話する。工藤が苦笑しながら杉並を指して言った。
「話にいれてやらないか?見苦しいし、うるさい。」
「く、工藤。貴様、たまに酷いな。」
「しょうがないな、確かに見苦しいし、ウザい。」
「桜木、貴様まで・・・」
杉並が顔をゆがめて、俺をにらみつけてくるがすぐに立ち直る。
こいつが本気で落ち込んだところなど、今までもこれから先も絶対にないだろう。
「どうだ?これから三人で『花より団子』に行かんか?」
「んー、いいんじゃないか?その代わり、テストの話題はなしな。」
「うむ。よかろう。」
工藤がもううんざりだ、と言う顔をしていたので杉並も納得したらしい。

はたして、『花より団子』にて。
「ふぅ…。まったりまったり。」
知らず知らずにそんな言葉が口から出てくる。
「しかし、いつの間にか二人になっちまったな、工藤。」
「確かになぁ…。ついさっきまで杉並も居たのにな。」
なにやら、杉並は「急用が入ったから、しばらくそこで待ってろ。」と言ってどこかへ消えた。
「…なんか、工藤と二人って珍しいな。」
「そういや、そうだな。」
なんとなく、声の出しにくい雰囲気がお互いの間にあった。
(ん…?いい香り?)
ふっ、とシトラス系の香りがした。
「工藤、お前って朝シャンとかしてるのか?」
「ん?ああ。これだけ長いと寝癖が大変でな。家の決まりで切ることもできないし…」
工藤が迷惑そうに自分の髪をつまむ。
工藤の髪は確かに長い。ロン毛、というほどではないが軽く結べるくらいの長さがあった。
「面倒なんだな。」
「まぁ、な。」
「待たせたな、ご両人。」
後ろから馬鹿の頭領が顔を出す。
「ったく、なにやってたんだ?卒パでなんかやるのか?」
「ああ、そのことについて朝倉嬢と話し合ってきた。とりあえず、妥協ラインの設定をな。」
「妥協ライン?なんだそりゃ?」
工藤が怪訝そうな顔で聞く。
「妥協ラインとはな、校風委員が目をつぶってくれるぎりぎりのラインだ。このラインのおかげで今回の作戦の目玉、『体育館爆破計画』は無くなった。」
・・・兄さん、お前を誇りに思うぞ、玲夢。
「というか、爆破って・・・火薬はどうするんだ?」
「科学部から仕入れる気だったが・・・それも必要なくなったわけだ。」
「じゃあ、今回は何もしないんだな?よかったぁ・・・」
工藤が軽く胸をなでおろす。正直、俺も同じ気持ちだ。
去年の卒パでは、杉並に付き合わされて「学園のコンピューターにハッキング大作戦」という、実質犯罪をやらされかけ、俺も工藤もへとへとだった。
「安心しろ、何もせんとは言っていない。」
杉並の言い放った一言。それは、悪魔の烙印に似ていた。
「というわけで、今回も力を借りたいのだが・・・ん?」
杉並の言葉が終わるより早く、俺と工藤は店を出ていた。

「はぁ・・・はぁ・・・もう、大丈夫か?」
「・・・はぁ。たぶんな。」
工藤と俺は全力疾走で「花より団子」から逃げ出した後、犯罪者のような会話をする。
「・・・工藤と逃げるのって初めてじゃないか?」
「まぁ、主に杉並と逃げるもんな。お前は。」
「ま、たしかにな。」
どちらからともなく笑いがこぼれる。
俺たちは、しばらく一緒に笑っていた。
テスト前とは思えない、本当にのどかな風景だった。

「・・・?なんだ?」
工藤と二人商店街を歩いていると前のほうから土煙が上がってきた。
「さ〜く〜ら〜ぎ〜せ〜ん〜ぱ〜い〜!!!!」
「あれ?水越さんじゃんか。」
「ホントだ、真弓だうぇ!?」
出会い頭にとび蹴りを喰らって吹き飛ぶ。
「ちょ、桜木!?」
「桜木先輩、先ほど杉並先輩と一緒に居たとの情報が入りましたのでお伺いに来ました。」
「・・・だとしたら、もうちょっと穏便に訊け。俺がしゃべれない体になったらどうする。」
直撃をもらった腹をさすりながら、真弓をにらみつける。
「桜木先輩のタフさは知っていますので。で、どうなんですか?杉並先輩とは何を話したんですか?」
仕事モードの真弓が問い詰めてくる。この辺の怖さは眞子先生譲りだろうか?
「知らん!俺は卒パは何もしない!」
「本当ですか?桜木先輩は前科がありますからね。」
「本当だと思うよ、水越さん。杉並とは、テストの話をしただけだし。」
工藤がさりげなく助け舟を出してくれる。
「へ?そ、そうなんですか?」
「うん。今回は、桜木もバンドの方があるし。」
バンド、とは実際には形だけで、工藤と俺、あとは同学年が二人居る、いわゆる「サボリ部」だ。
「こ、これは失礼を・・・。てっきり爆薬でも仕入れて使うのかと・・・。」
「・・・勘違いで蹴られたのかよ。」
「はうう、すみません〜。」
真弓が「仕事モード」を解除してあやまる。
「ったく。仕事が絡むと妥協は一切ないもんなぁ。」
「公私混同だけは絶対したくないんですよ。」
工藤が苦笑しながら、俺を見る。
「さすが桜木、信用ないな。」
「お前もだ!お前も!」
「そうですよ。決して桜木先輩だけじゃないんですよ。工藤先輩もブラックリストに入ってます。」
真弓もくすくす笑いながら、だけど、と繋げる。
「工藤先輩は人望があるので、桜木先輩よりは安全です。」
「だってさ。桜木。」
「・・・あっそ。」
確かに、俺は杉並と普段から絡んでいるし、クラスメイトとはそこまで仲がいいわけじゃない。
だが、校風委員二人に勉強を教えてる人間が信用できないんなら、講師は全員信じられないんじゃないか?
少しだけ、理不尽な気持ちになりながら真弓と工藤を見る。
「・・・?どうかしましたか?桜木先輩。」
「・・・いや、なんか無性にチョコバナナをお前に奢ってあげたくなった。」
「え!?ホントで――げふん。すみませんが、そんなもので桜木先輩への嫌疑は晴れませんよ。」
あ、今ちょっとほしそうな顔した。
「な!?お前はそう取るのか?せっかく5本くらいは奢ってやろうと思ってたのに。そんなふうに思われてたとはなぁ・・・。」
「あわわわ・・・すいません、すいません。うそです、嫌疑なんかありませんー!だから、チョコバナナは・・・あ。」
真弓はしまった、と言うように口を押さえる。
赤面しながら必死に弁解の言葉を探しているようだが、全く見つからないようだ。
その様子をしばらく工藤と声を立てずに笑っていた。
「・・・。純粋にほしいと言いなさい。」
「・・・ほしいです。」
観念したように真弓がうなだれながら言った。

「桜木先輩は、今後二度と疑いません!チョコバナナをくれる人に悪い人は居ないです。」
真弓は幸せそうにチョコバナナを頬張っている。
「完全に餌付けだな。桜木。」
「それは言うな。」
工藤の冗談(半分くらいはあたってる気がしないでもない)につっこみながら、自分の分を平らげる。
「じゃあ、そろそろ戻って勉強するかな。」
立ち上がりながら伸びをする。休憩のつもりが長く出すぎてしまった。
「真弓、それ食ったら勉強しろよ。」
「了解です!」
「じゃあな、桜木。」
幸せそうな顔の真弓と工藤をそのままに、俺は家へと向かう。
なんだか、しっかり勉強できそうな気がした。

「第一回朝倉家大勉強大会を始めるぞ。」
「何でお前が仕切る。」
「・・・杉並君って面白いですね。」
「でしょう?これで頭もいいんですよ。」
なぜか、家に利奈、杉並両名が押しかけてきて、勉強会だとか抜かしやがった。
まぁ、杉並は学園トップだし、俺は学年の中でもよい方の部類に入る。
つまり。
「玲夢のための勉強会か。」
「そういうことだ。我が親友、朝倉嬢が赤点を取ろうものなら学園生活が一気につまらなくなるんでな。」
「私は、純粋に遊びに着たんだけど・・・。杉並君に捕まって。」
家の居間のソファーにそれぞれが腰を下ろし勉強を広げている。
「ま、いいや。わかんない事があったら質問すること。それじゃあ、それぞれの勉強開始。」
そういったのはすでに一時間前だ。
玲夢は額に汗を浮かべながら杉並の教えを受けている。
利奈と俺は黙々と勉強を進め、たまに杉並に聞いたりする。
カリカリカリ・・・。
シャーペンを走らせる音だけが耳に残るほど集中していると、
「ハロー!みんな元気〜って、お勉強中だったの?」
問答無用で場違いな声が飛び込んできた。
「うわっ、びっくりした。」
「うにゃ?ボク、びっくりされるようなことしたかな?」
「いきなり入ってこないで下さいよ・・・。」
まったく、心臓に悪い。
「おお、芳乃講師。ちょうどよかった、ここの問題なのだが・・・」
「杉並、お前適応早すぎ。」
杉並がにやり、と笑ってきた。なんか、すごく意味ありげに。
「にゃ?どれどれ・・・?」
さくらさんは問題を確認すると、しばらく考えていたが、ピン、と指を立てた。
「ああ、この問題はね・・・」
この後、さくらさんが結局玲夢のために補習のようなことをしてくれた。
ちなみに、利奈と俺はやることがなくなったのでお茶や菓子を食べていたが。
そんな、充実感のある午後だった。


「ふぅ・・・。って、もうこんな時間か。気が付かなかったな。」
勉強に集中していたせいか、窓から見える空はすっかり暗くなっていた。
きっと下では玲夢が腹をすかせているか、TVを見ているだろう。
「・・・夕飯、出前頼むか。」

「おーい、玲夢?って、ありゃりゃ・・・」
下に下りてみると玲夢は机に突っ伏して眠っていた。
「ったく。こんなところで寝たら風邪引くっての。」
テストに向けて本人なりに頑張っていたのだろう。玲夢の体の下には数学のテキストがあった。
「おーい、起きろ、玲夢。」
「ううん・・・。むにゅ?って、寝ちゃってた!?」
「おう、ぐっすりとな。」
玲夢が、恥ずかしそうにうなだれる。
「ほれ、飯食いに行くぞ。俺のおごりだ。」
「え?いいの?」
「ま、明日の試験頑張るんならな。」
玲夢の顔が一瞬にして笑顔になる。
「やった!じゃあさ、どこに行く?兄さん。」
「そうだなぁ・・・」
金銭的な問題が頭に浮かんだ。
「・・・松屋の牛丼?」



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!