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D.C.half
本編 2月27日(土) 玲夢ルート
二月二十七日(土)

「ふぁ・・・」
居間で、新聞を読んでいるとあくびをしながら玲夢が降りてくる。
「おはよ。休みは早いな。」
「だって、時間がもったいないじゃない。」
「平日ももったいないと思うぞ?」
むしろ、休日よりもったいない。
「いいの。平日は兄さんが起こしてくれるから。」
「あのなぁ・・・」
がくり、と肩を落としてしまう。俺が居なかったら万年遅刻なんじゃないか?こいつは。
「あ、真弓と約束あるから私行くね。」
「あ、待て玲夢!朝飯食ってからにしろ。」
「コンビニで買ってくー!」
やけに高いテンションで、玄関を駆け抜けて行ってしまった。
「…あれ?あいつ、財布忘れてんじゃん。」
まったく、世話のかかる従妹だな…。
俺は、玲夢の財布を持って家を出たのであった。

「…おれ、学校好きだったか?」
日も高くなり、もうすぐ昼になろうかと言うころ。俺は、なんとなく学園に来ていた。
「なんかなぁ…。かわいい女の子とぶつかるとか、面白いことないかなぁ…。」
とか、つぶやいていると。
「えいっ!」
どかっ!
「うわぁ!?」
いきなり後ろからぶつかられた。
「ってぇ・・・。誰だよ・・・。」
「あれれ?喜ばないね、工藤君。」
「いや、喜ぶはずないでしょう、北城先輩。」
やけになじみのある声が聞こえたので、ため息をつきながら二人のほうを見る。
「…なんのつもりっすか?利奈。」
「かわいい女の子とぶつかりたいーっていったから、かわいい先輩がぶつかってあげたんだけど…気に入らなかった?」
…自分でかわいい言うな。というか実行すんな。
「…ドンマイ、桜木。」
「止めろよ、工藤。」
「ねぇ、秀君、こんなところで何してんの?」
俺と工藤の会話は聞いていなかったらしく、利奈が聞いてくる。
「や、特には。気分転換で歩いてたら、いつの間にかここに…」
「そっかー。じゃあさ、そのままお散歩しない?天気もいいし。」
「散歩っすか…。んー、ちょっと腹減ってるんで、俺はパスで。」
「なんだ、そっかー。残念だね。」
がっくり、という動きに比べて顔はすごくニコニコだ。
利奈の底抜けの明るさは、人気の秘密なんだろうなぁ。
「あ、桜木。杉並が、午後にゲーセン来いってさ。」
「了解。それじゃな、工藤、利奈。」
俺は二人に別れを告げて、家に急いだ。
ゲーセンに行くための金を持たねば!

「ぐぅ…。疲れた…。」
ゲーセンの戦闘機シミュレーターの前のベンチでへたばってしまう。
「いやはや、さすが桜木。チャレンジャーを6人抜きは褒めるしかないな。ほれ。」
「お、さんきゅ。」
杉並から渡されたジュースを開けて飲む。
「でも、ずいぶん使っちまったな。まさか、総力戦になるとは思わなかった…。」
「まったくだ。ストーリーモードの難易度が高すぎるな。」
今日は新しく入った格闘ゲームをやっていたのだが、敵の難易度が高すぎて金をかなり使ってしまった。
「総力戦と言えば、あそこも白熱してるっぽいぞ。」
「ん?どこだよ。」
杉並の指す方向を見ると、小さな人だかりが出来ていた。
「行ってみるか?」
「暇だしな。」
俺たちは人だかりに向かって行った。
・・・・・・・。
「うにゃ!」
なにやらよくわからない気合を発しながら金髪の少女がガンシューティングをしていた。
「ふむ、なかなか筋がいい。将来、強くなるな。」
「あんなもん、強くなっても意味ないだろ…」
小学生ぐらいだろうか、その女の子はかなりの腕前で一緒にやっているプレイヤーを援護しながら戦っていた。
「うにゃにゃ!てりゃー!」
「あ、味方のやつ死んだな。」
「ふむ、この局面でひとりはつらいな。」
少女のやっているステージはボスがいるステージで、一人でクリアできないと有名なステージだ。
「うにゃー、ここまで来てやられたくないよ…。」
少女もそれを知っているらしく、今まで以上に慎重な攻撃になっている。
「…。」
あ、やばい。ものすっごいやりたくなってきた。
「…おーい、手伝おうか?」
「にゃ?うん、てつだってー!」
少女の隣に並んで、コインを入れる。
「よっしゃ!行くぞ!」
「にゃ〜!」

「げーむ・くりあー!」
「フゥ…」
つめていた息を吐きながら拳銃を設置位置に戻す。
「にゃはは、手伝ってくれてありがとう!」
「いやいや、君もうまいねぇ。」
実際、アレはかなりガンシューをやりこんでないと出来ない芸当だ。
「どんなもんだい!ボクは、お兄ちゃんから教わってたからね。」
「へぇ・・・。」
今度、ぜひその人と共闘したいもんだ。
「じゃあ、ボク帰るね!」
「あれ?そんな時間か…。俺も帰るか。」
「そっか、じゃあまたね。バイバーイ!」
少女の金髪頭を見送ってから、杉並を探す。
「…あ、メール。」
携帯をひらいてメールを見ると、杉並からだった。
「?なんだ?」
―幼女と遊んでいたようだから、先に帰る。さらばだ。MY同士よ。―
「…野郎。」

「あれ?あの子だ。」
店を出てすぐ、先ほどの少女を見つけた。なにやら、猫をなでているらしい。
「やぁ。」
「うにょ?さっきのお兄ちゃんだ。」
「また会ったね。猫、好きなの?」
「うん!」
少女がにっこり笑う。なんというか、見てるこっちが笑いたくなる笑みだ。
「うにゃ、お兄ちゃん家どこ?」
「俺?俺はあっち。」
「うにょ?ボクもあっちなんだ。いっしょに行かない?」
…誘拐?いやいやいや…。
「よし、それじゃあ戦友をエスコートさせてもらおうかな。」
「よろしく!ボクはさくらだよ!」
「俺は秀越。よろしくな。」
・・・・・・・・
「へぇ…。アメリカに行ってたんだ…。」
「うん。仕事でちょっとね。お兄ちゃんに会えなかったのはさみしかったけど、平気だったよ。」
さくらと俺は、なぜか帰る道がまったく別れず、あとこの通りで曲がらなかったらご近所さんだ。
「曲がる?」
「ううん、曲がんない。このまままっすぐだよ。」
「ってことはご近所さんか。名字、なんだっけ?」
「ボク?芳乃だけど?」
・・・芳乃?
「芳乃さくら!?」
「うにゃ!?ど、どうかしたの?前世からの因縁か何か!?」
「うわぁ…。まさか…、この子が芳乃さくらだとは…。」
「うにょ?秀越君、ボクのこと知ってるの?」
「呼び捨てでいいよ、さくらちゃ…さん?あ、俺の名字は桜木だよ。」
そうか、この子が「あの」芳乃さくらだったのか。
「そうなんだ…。あ、ここがボクの家だよ。」
「で、ここが俺の下宿先。」
そういって朝倉家の取っ手をつかむ。
「え!?おにいちゃんち?」
そう、この子こと「芳乃さくら」は・・・。
風見学園の講師で、純一さんの幼馴染だ。

「にゃははは。久しぶり、玲夢ちゃん。」
「さくらさん!お久しぶりですね。」
玲夢が猫被ってないということは、かなり前から面識あったのか…。
「あの、水越真弓です。よろしくお願いします。」
「あー、眞子ちゃんとこのかー。大きくなったねー。」
真弓のことは知っているらしく、挨拶する。
「って、何で居るんだよ。真弓。」
「お母さんが今日は用事があるから、玲夢先輩の家に泊まってこいといわれまして。」
「おっとと、じゃあボクは引越しの片付けがあるから帰るね。」
「はい、じゃあまた今度に。」
「うん、バイビー!」
そう言って、さくらは帰っていった。
「さてと、飯を作るか。何が食いたい?」
「あ、私が作るよ?兄さん。」
玲夢が席を立ってキッチンに向かっていく。
…はっ!いかんいかん、思考が固まってた。
「待て!玲夢。今日は真弓も居るんだ、俺が作るよ。」
「いいですよ、私が作りますから。」
「よくない!時間がかかりすぎる!」
むしろ、味も怖いし。
「え、えーっと、玲夢先輩、相談に乗ってもらえませんか?」
真弓が助け舟を出してくれる。ありがとう、真弓。
「え?うーん、わかった。じゃあ、兄さん。お願いしますね。」
「おう、任しとけ。」
真弓と一緒にこっそり安堵していたことは、絶対に言うまい。

「ふぅ・・・。」
一通り勉強を終え、居間に下りてくると真弓と玲夢が居た。
「お前ら、勉強はどうしたよ。」
「え?えーっと、これ見たらやります。」
「私は、もって来てませんので残念ながら出来ないんですよ。」
二人ともそれぞれの反応を返してくるが、つまりはしたくないと。
「玲夢、ちゃんとやれよ。」
「えー!何で私だけ!?」
不満げな顔をこちらに向けてくる玲夢にデコピンを当てる。
「馬鹿。お前の『これ見たらやる』はやらないって意味だ。テストも近いんだからな。」
「むぅ…。」
「お疲れ様ですね、玲夢先輩。」
がっくり、とうなだれた玲夢の頭をなでながら、真弓が笑う。
「お前も人事じゃないぞ、真弓。」
「だから、持ってきてないから出来な―」
「俺が二年のころに使ってたノートがあるから、それ使って勉強しろ。」
公式はしっかり書いといたはずだ。たしか。
「い、いえ!範囲も違いますし、桜木先輩にご迷惑はかけられません!」
顔を真っ赤にしながら言うセリフじゃないだろ、それ。
「範囲って…学年末テストは一年間分だぞ。それに、俺はノート貸すだけだぞ。どう考えても迷惑はかからんと思うが。」
さすがに教えるのは面倒だ。
「ま、真弓、今日はもう遅いから寝ない?」
「そ、そうですね玲夢先輩。寝ましょうか。」
玲夢と真弓がそんなことを言いながら立ち上がった。
「遅いって・・・八時だぞ。」
「へぅ…」
すごすごとソファーにもどる二人。座りなおしてから、玲夢が思いついたように目を輝かせる。
「そうだ!兄さんが教えてよ!」
「そうですね、桜木先輩が教えてくれればいいんです!」
「はぁ!?」
いつの間にか、上目遣いになった二人が、「ダメ?」とでも言うように首をかしげる。
ううう…。
「…わかったよ。」
そのあと、二時間くらいかけて玲夢と真弓に勉強を教える羽目になった。
いや、アレは誰も断れんと思うぞ。実際。

「ふぅ…。疲れた。」
予定外の精神労働が入ってしまい、もうくたくただ。
「明日が日曜日でよかったー。」
「うにゃ?明日は土曜日…あ、そっかー。日付変更線を超えてたね。うっかりうっかり。」
・・・あれ?今、ものすごーくリアルな幻聴が…
「にゃぁ〜。」
「うたまるー!久しぶり、元気にしてた?」
「なにやってんの、さくらさん。」
いつの間にやら俺のベットの上にさくらさんが来ていた。どっから入ったんだよ…。
「いやー、よかったよ。ここの窓がまだ壊れたまんまで…。入れなかったらどうしようとか思ってたからねー。」
「不法侵入ですから…。玄関から来てくださいよ。」
「にゃははは。ごめんね、ほとんど癖なんだ。それより…」
不意に、さくらさんがまじめな顔つきになる。
「秀君も、お兄ちゃんみたいに和菓子出せる?」
「え?あ、はい。一応…」
「そっか・・・。」
急に黙り込むが、ふたたび顔を上げた時にはにっこりと口元が微笑んでいた。
「ねぇ、何か出してくれない?和菓子。」
「へいへいほーっと。」
手のひらに桜型の茶菓子をイメージする。
「はい、こんなもんですね。」
「うにゃ?ちょっと高級そう・・・?」
渡された菓子をしげしげと眺めた後、一口で頬張る。
「!すっごくおいしい!」
「それはよかった。」
しかし、さくらさんは不思議そうに俺を見ていた。
「やっぱり、秀君は魔力が多いのかな…」
「へ?」
何か聞こえたような気がしたが、さくらさんはいつの間にか窓に手をかけていた。
「じゃあ、また明日だよ。お休みー!」
「え、あの、ちょっと!」
窓に駆け寄り、外を見るがもう、さくらさんは居なかった。
「・・・なんだったんだ?いったい…。」
窓のそばで首を振っていたうたまるに話しかけるが、俺を見ながら一声鳴いて見せただけだった。


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