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D.C.half
玲夢ルート(ED近辺なので理解不能な可能性大)
ものすごく大雑把なあらすじ。
玲夢と付き合い始めた桜木だったが、初音島のあちこちで奇妙な現象が起こり始める。
それを止めるために桜木は再び「枯れない桜」をからすことを決意する。
しかし、「枯れない桜」を枯らしたことによりすでに死亡している桜木はこの世からはじかれて消滅してしまう。
それを避けるために玲夢が自分の命を桜木に分け与えようとするが、今度は玲夢が消滅しかけてしまう。
目を覚まさない玲夢を起こすために桜木は玲夢の夢の中に入る。
玲夢の記憶を見て、過去の記憶で両親を亡くしていることを知った桜木が玲夢を探しに走りだすシーン。






気が付くと、走り出していた。

誰もいない桜並木を走り抜け、枯れない桜へと向っていた。

きっと、そこにいる。玲夢は、そこで願っている。

多分、それは純粋でささやかな願い。

「大切な人と一緒に居たい」という優しい願い。

そんな、誰もが抱くような願いは、この偽りの世界の中でさえ叶わない。

枯れない桜は・・・「願いを叶える魔法の桜」は、枯れてしまった。

願えば叶う、祈れば通じる・・・。一人一人はダメでも、みんなで願えばハッピーになる。

所詮それは夢の中だけの話だ。

夢から覚めてしまった初音島では、願っても届かない。

俺は、自分自身の存在が消えていくのを感じながら走った。

おそらく、もうほんの少ししか持たないだろう。

けれど、俺の脚は止まらずに走り続けた。



はたして、居た。

玲夢は、こちらに背を向けて桜に両手をついていた。

俺は、上を見上げる。

咲き誇る満開の桜。けれど、もはや消えかかっている。

儚げに、そして悲しげに咲く淡紅色の花。

――ああ、知らなかった。

桜が、こんなにも美しかったなんて……。

「玲夢。」

俺が声をかけると、玲夢は驚いたように振り返る。

そして、すこし遅れて微笑む。

「ど、どうしたの?兄さん。こんなところで……もう、夜も遅いよ?」

「お前こそ、こんなところで何してるんだよ。それこそ、こんな夜更けに。」

俺が一歩近づくと、玲夢が恐れるように後ろに下がる。

瞳が、悲しげに伏せられる。

「――考えてたんだ、いろんなこと。」

ぽつり、と玲夢がつぶやく。

いつものような元気な声じゃなくて、今にも消えそうな小さな声で。

それなのに、良く聞こえた。

「どうして、世界ってこんなに酷いんだろう。どうして、大切な人はいつも私の前から居なくなっちゃうんだろう……って。」

玲夢の声が震える。

「最初はお母さん……次はお父さん……せっかく出来た大好きな人も、私の前からいなくなってしまう。」

こらえられなくなった涙が、玲夢の頬をつたう。

「どうして……私の願いはいつも叶えてくれないのっ!!!」

悲痛な叫びが、胸に刺さる。

本来ならば、魔法なんかなくても、十分に叶えられる願い。

けれど、そんな願いも叶わない。

「約束したじゃない!ずっと……ずっと一緒にいようって!なのに……なのに!!」

子供の涙ように。どこまでも純粋に、人を想う涙。

「こんなのって……ないよ……。」

俺は、歩み出していた。

もう、ほとんど体の感覚がない。

それでも、進む。

最後に、どうしても伝えたいことがあったから。

最後に残った存在(ちから)を振り絞って、俺は――

玲夢を、抱きしめた。

「あ……」

「ありがとう。」

抱きしめて、玲夢の鼓動を感じる。

温かさも、優しさも、切なさも、そのすべてが伝わってくる。

「ありがとう、玲夢。俺を好きになってくれて。」

だから、どこまでも自分らしく。

「約束、守れなくてごめん。本当に、ゴメン。」

どこまでも、彼女を想って。

「けど、俺は幸せだったから。」

そう言って、唇を重ねる。

「ん……。」

そのやわらかさに、愛しさがあふれ出す。

「だから、玲夢。お前は、帰らなくちゃいけないんだ。」

目を閉じて、さくらさんに言われたように願う。

「……お前が居るべきなのは、こんな偽りの世界じゃない。」

ただただ純粋に。たった一つの願いを。

「正しい世界への帰還」を願う。

「ダメ!兄さん!」

玲夢も、さすがに俺の様子に気づいたらしくあせったように叫ぶ。

瞳に涙を浮かべたその表情でさえ、愛しい。

「ダメ……!いっちゃだめだよ……!!」

玲夢を抱きしめる手はみるみるうちに桜の花びらとなって散っていく。

走馬灯が浮かび上がる。

玲夢と過ごした日々が、鮮やかに甦る。



――たとえば、彼女と歩いた通学路。

一人で歩くときと、少しだけ違って見えた。

――たとえば、彼女と遊んだ公園。

一緒に過ごす時間が、とても心地よかった。

――たとえば、彼女と過ごした家。

手間のかかる彼女の世話をするのが好きだった。

たとえ、わずかな間でも。

ここに居なければ出会えなかったのだから。

出会えなければ、こんなにも幸せな気持ちにはならなかったのだから。

一度終り、ダ・カーポのように再び始まった短い生に確かな意味を与えてくれた。

だから、彼女を帰そう。

彼女を大切に想う、多くの人々が居る世界へ。

……たとえ、そこに俺がいなくても……




「にいさぁぁぁぁん!!!」

玲夢の泣きそうな顔を最期に見て、

俺は桜の花びらとなって・・・

消え・・・た・・・・・。


















エピローグ

「ふぅ・・・。」

私は、朝倉家の掃除をしていた。

今までは兄さんがしてくれていたが、今ではもう自分でしなくてはいけなくなってしまった。

こうして実際にやってみると、兄さんにいかに迷惑をかけていたかなんとなく分かってしまう。

「うう・・・ぐうたらな妹でごめんなさい、兄さん・・・。」

いまさらながら後悔する。

『もうちょっと早くそれに気づいてくれればよかったんだけどなぁ・・・。』

そんな、少し呆れたような声が聞こえた気がして、仏壇に置かれた写真を見やる。

真新しい位牌と一緒に並べられた、最愛の人の写真。

「・・・あれから、まだ1ヶ月しか経ってないんだね・・・」

仏壇の前に正座して、手を合わせる。

・・・初音島の夢は、解けてしまった。

もう、願っても叶わない。いや、正確には願っているだけでは叶わない、か。

「どっちにせよ、兄さんは帰ってこないんだろうけどなぁ・・・」

そういって立ち上がり、庭先に出る。

桜は枯れ、今では青々とした緑が息づいていて、青空によく映える。

初音島は平和だった。

私とごくわずかの人以外は、誰も兄さんのことを覚えていない。

真弓も、工藤君も、杉並くんでさえ覚えていなかった。

――もしかしたら、すべて夢だったのかもしれない。

ついつい、そんなことを思ってしまう。

掃除に疲れた私が、居間のソファで寝ている間に見た夢。

目を覚ますといつもどおりに兄さんがいて……。

「って、止め止め。現実逃避は良くないぞ。うん。」

涙が出そうになる心を必死になって奮い立たせる。

そう思って立ち上がったとき、不意に背後に気配を感じた。

気配は一瞬で、すぐに消えてしまったけど。まだ、残っている。

気が付けば、私はその気配を追って走り出していた。



あの日、兄さんが消えた日。

兄さんが私を追って走ったであろう道を走る。

部活に向う学生で溢れる桜並木を走り抜け、枯れてしまった桜へと向っていた。

きっと、そこにいる。あの人はそこで待っている。

きっとそれは、ささやかな奇跡。

「大切な人」と逢えるという奇跡。

そんな、夢の中でも叶わなかった奇跡は、この正しい世界で叶ったのだ。

枯れない桜は・・・「願いを叶える魔法の桜」は、枯れてしまったけれど。

願えば叶う、祈れば通じる・・・。一人一人はダメでも、みんなで願えばハッピーになる。

夢の中だけの話でも、それは不可能じゃないから。

夢から覚めてしまった初音島でも、願えば届く。

私は、大切な人の存在を感じながら走る。

気を抜いたら、嬉しさのあまり泣き出してしまいそうだ。

けれど、私は必死に我慢して走り続けた。



はたして、居た。

「彼」は、こちらに背を向けて桜に両手をついていた。

私は、上を見上げる。

咲き誇っていた満開の桜。けれど、もはやそれは見る影もなく散っていた。

涼しげに、青々と伸びる桜の葉は良く晴れた青空に映えた。

――ああ、知らなかった。

世界は、こんなにも綺麗だったなんて。

「兄さん。」

私が声をかけると、「彼」は当たり前のように振り返る。

あの日から、何も変わらぬ笑顔で。

私の大好きなままの姿で。

その姿が、涙で歪む。

また、走っていた。

もう、なんと声をかければいいかなんてわからない。

再び逢えたこと。それだけがただただ嬉しい。

だから、愛しい気持ちを込めて彼の腕に飛び込んで叫んだ。

「――逢いたかった、秀越兄さん・・・!」





END



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あきゅろす。
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