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冷たい故郷/アレルヤ 微アレティエ










機体の性能上、と言えばそれまでだけれど。
武力介入を同時に別の箇所で行う際には組むことが多かった。
流星のごとく世界最速に近いトップスピードで戦場を駆ける可変型機、キュリオス。
鉄壁の防御を誇り圧倒的なまでに敵を大放出のビームで殲滅するヴァーチェ。
装甲ゆえに動きが遅くなってしまうヴァーチェをキュリオスのスピードでカバーし、敵を一気に殲滅するには劣るキュリオスをヴァーチェがカバーする。そういう戦術だった。実際マイスターの資質としても、真面目で冷静なティエリアとではやりやすい方だと思う。否、もしかすると他人とのコミュニケーションをあまり得意としない自分と、ティエリアの他人への無関心さが自分には過ごしやすい距離だったからかもしれない。

お互い戦い方に関しては衝突こそ有るものの、コンビを組むには丁度良かった。
何か、似たところがあったのかもしれない。

そして、ガンダムに重力の有無はそう仇にならないことだが、この機体上まったく正反対にあるこのコンビは専ら宇宙での戦闘が多かった。

それが時に不思議に思え、そして時に心地よかった。

宇宙。

地球。

それこそ地球は宇宙の一部だというのに、その二つの距離は遠い。

人に思わせるものが、遠い。

遠いものだと人に思わせてしまう。



一人、強化ガラスの向こうに光る地球を眺めていた。ぼんやりと、鮮明に光る水と緑の惑星、それは今はそう遠くない。今頃は、水と緑、まさに地球を構築する色である青と緑の天使が戦場に舞っているころだ。黒い煙が立ち上っているだろうそこも、ここからでは何も見えはしない。いくら戦火が上がろうともすべてを内包した星はその陰りを見せないのだろう。宇宙で起こることを宇宙が隠してしまえば、地上で起こった出来事も地球はその光の中に決して表さない。それが、地球を見た人々に綺麗だと思わせる原因だろうか。

所詮は綺麗事だけれど。その地上のどこかで戦火が上がっている今、綺麗だと思う善良な心は持ち合わせていない。



(また消えていくよ、ハレルヤ)



この瞬間にも命が消えていくのだと思うと、自分たちは酷く醜い。

どうしようもないことだけれど。

シュン、と、見計らったように後ろのドアが開いた。



「アレルヤ・ハプティズム」



相変わらず、彼の声は揺らぎがない。



「2時間後にブリーフィングを行う。ミッションだ」



「わかったよ」



「君もこんなところで時間を無駄にしていないで、訓練にでも励んだらどうだ」



彼らしい。思考といい、言動といい、言葉選びが。

「時間の無駄」と、そう思うのなら。やっぱり、彼と自分はどこか似ているらしい。



「ティエリア」



「なんだ」



「ちょっといいかな」



「手短にしろ」



「…地球は好きかい」



「何故そんなことを聞く」



「なんとなく」



「必要性を感じられない」



「…そっか」



「ただ、アレルヤ・ハプティズム。それだけで感傷や罪悪に苛まれるというのなら、ガンダムマイスターである資格はない」



「わかってるよ。…そんなんじゃないんだ」



「何だ」



「地球が、遠いなと思ってね」



「…言いたいことはそれだけか」



「うん」



「理解できないな」



「ティエリア、次のミッションも宇宙かい?」



「いや、地上だ。エクシアとデュナメスと合流する。」



「そっか」



「ヴェーダの指示に不満でもあるのか」



つっけんどんな口調に思わずクスリと笑った。けれどそれもお気に召さないらしく、ガラスに映りこんだ相手は眼鏡の奥から一層厳しく自分を睨みこむ。慣れたものだけれど、やはりその鋭さは毎回突き刺さる。かわせるのは約一名しかいないようなものだ。

それでも今日、今の自分は笑みを引っ込ませなかった。



「そうじゃない。…君がまたイライラするのかと思ってね」



「何故気にする」



「穏やかじゃないのは嫌いだからね」



最も、自分たちがしていること、これからすることは穏やかさなどかけらも無いのだが。自嘲気味に眉をひそめて笑うと今度は睨まれなかった。



「地上は嫌いだ」



投げ捨てるように言われたその言葉は、地球は嫌いだという答えに受け取っても良いのだろうか。



「…僕も、少し苦手かな」



「だがミッションは完璧に行ってもらう」



「うん」



「こんなことをしていないでもっと有意義なことをしろ」



「わかったよ。…ありがとう、ティエリア」



一瞥して部屋を出るティエリアを見送った。



(『こんなこと』に付き合ってる君も優しいよ、ティエリア)



誰かに並ぶ無愛想で、毅然としていて言動も容赦ない。クルーにも敬遠されがちで、積極的に話しかけるのもこれまた約一名しかいない彼の、こんな一面を知ったのはつい最近だ。

その約一名が根気強く話しかけるのが穏やかさを心情とする自分には理解できなかったのだが、知ってしまえばわかる気がする。最も、彼自身気付いていないが。



(『地上は嫌い』、か)



最も彼と通じる共通点を挙げろと言われれば、そこかもしれない。

嫌い、とまではいかないけれど、苦手、と言うには本当だ。

些細なことかもしれないが、体に重くのしかかる重力だとか、上下左右の決まった世界だとか、宇宙にいるとだいぶ厄介に感じられる。

鎖に繋がれたみたいだと、もう一人の自分は言った。

平和を望む者として言うならば、人間が何百年と争い続けてきた地上が『嫌い』なのかもしれない。最も言い分のようなものだが。



(君と僕はどこか似てるよ、ティエリア)



あきゅろす。
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