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大地に汚れなき空を、空に汚れなき花を/刹那
※旅の途中




「おにーちゃん、お空はつながってるって、本当?」

「…ああ、本当だ。」

2日前から滞在しているこの地で、異人は珍しいのだろう。

青い目をした小さな子が、興味深そうに話しかけてきた。

「ふーん、じゃあ、お空はどこでも同じなんだね。」

「そうだな。」

「すごーい、お空とびたいなー」

「お前は空、好きなのか。」

「うん!!きれーだし、お星様見えるし!おにーちゃんは?」

「…わからないな。」

「いじわるー!」

楽しそうにころころ笑う子の澄んだ目には、自分の顔。

青い目が輝いている。

空よりも、この目のほうがきれいだ。

何も帰してくれなかったそらよりも、痛みで染まったそらよりも。

ずっとずっときれいな青をしている。

「はい、じゃあおにーちゃんにはあめあげる!青が似合うから、青いのね!」

「……そう、か。」

小さな手が触れる。ひどく、温かかった。

汚れた手なのに、しっかり触れてくる。

「うん!じゃあね、おにーちゃん、バイバイ!」

「…ありがとう。」

ふふっと笑って去った子を見送って、ごろりと仰向けになる。

広がるのは、あの子が好きだと言った空。







地上に落とされてから見た空は、高かった。



空の明るさは、宇宙の暗さを隠してしまう。痛みも、悲しみも。孤独さも。

まるで、世界が失った者たちの存在を消すようで。生きた証を消すようで。

爆破した母艦。何も残らなかった。あの場所も、あの温かさも。

消えた者たち。体すらも、帰してくれない。目の前にいたのに、何もさせてくれなかった。

暗い暗い闇に、隠してしまった。想いだけ残して。

落ちることなく目の前に漂う涙が、現実を突きつけていた。

絶対零度の中で、家族と眠ることなく。一人ぼっちで。

そして眠る場所で、戦いと痛みは繰り返されていく。



軍の賞賛しかしない世界に、嘘だと怒鳴ってやりたかった。

俺たちの想いを知らないくせに、と。

嘘で固められた世界。嘘で囲まれた世界。嘘の、平和。

血はまだ流れる。大地は汚れる。

空は無関係のように流れる。

その空も、汚れてしまった。



空をきれいだと言ったあの子には、きれいな空しか知らないで欲しい。

空は色を吸わなくてよかった。空が色を吸うのなら、空は赤くなってしまうから。

きれいな青い目に、赤を映らせたくは無い。

ずっと、青いままで。きれいなまま、生きて欲しい。

そのために、俺は戦おうと。



もらった飴玉を、目の前にかざす。

青が似合う、か。

その青は、空の青でもあり、「兵器」と名のついたものの青。

青は美しく、悲しい。



取り出した飴の丸さが、優しかった。



空はまだ悲しいけれども。

あの人たちがいる。

ずっと、見守っていてくれる。やさしく包み込んでくれる。

独りになってもそう思えば辛くなかった。空はつながっているのだから。

ずっとそばにいるのだから。

空があるから、俺たちは戦える。



空は好きだが、嫌いだ。



口に入れた飴玉は、甘かった。


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