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ファーストコンタクト(過去編)
立芳と竜司の出会い編。








蒲鉾型のビニールハウスは竜司のお気に入りの場所だ。中は小川が流れ、鬱蒼とした緑は無造作のようでバランスは保たれ、四季折々の草花が鮮やかに咲き乱れる。
ビニールハウスと言うよりも室内庭園と呼んだ方がしっくりくるが竜司にはそんな事関係ない。

花壇の前にあるベンチに横になった竜司はふぅと溜め息をついた。

元から竜司はその容姿と家柄で騒がれる質ではあったけれど学年が一つ上がり、中等部3年生になった頃から急激に身長が伸び、その存在は際立つばかりで。

その噂は高等部にまで広がり、女子の注目の的になっていた。

中等部の女子はどちらかと言えば遠巻きに騒ぐ方で、質が悪いのは高等部だ。

化粧を覚え色めき立ち始めると無駄に自分に自信を持つのか、途端に竜司に群がり始めた。それだけなら竜司もまだ良かったが、その女子の恋人や元恋人(竜司が良いからと振られた者が多数)が最悪だった。

あらぬ因縁を付けては竜司に絡むは喧嘩を売るは。どちらかと言えば好戦的な竜司にも非があったのだろうが、一度一対一の喧嘩でコテンパンにしてやればその半月後には数人を連れて竜司に挑んできた。

いくら竜司が胴体視力も運動神経も人並み以上によかろうがまだ中等部3年生になったばかりで、高等部の、ほとんど体格も出来上がってる奴らに多人数で挑まれれば色々と不利な事になるわけで。

とりあえず今のところ負けなしの竜司に、そんなところがまたいい、と騒ぐ高等部女子に事態は収集がつくどころか広がるばかりだ。

人気のないところを探して学院内をふらついていた竜司が見つけたのがこのビニールハウスで、華美ではないけれど丁寧に手入れされたそこを竜司は一目で気に入り、疲れた時は時折訪れるようになっていた。

聞こえてくるのは風の音に小鳥の声、川のせせらぎ。

差し込む日光が程よく身体を暖めてくれて、竜司はうつらうつらと心地良い眠気に身を任せた。




それから暫くして、竜司は人の気配に意識を浮上させた。

うっすら目を開くと誰かが竜司をのぞき込んでおり、竜司は反射的に相手の腕を掴み素早く自分が寝ころんでいたベンチに押し付けた。

「う、わ!」

突然マウントポジションを取られた相手は目をパチクリと瞬いて、竜司を仰ぎ見た。

「わぁ…、きれー」

「は?」

思わず零れたであろう言葉に竜司が訝しむ声を上げると、下にいる少年はビクッと震えたかと思うとその口を開いた手で塞いだ。

1年生であろう少年(胸ポケットの刺繍の色が1年のそれだった)に、いつも竜司が向けられる悪意やネチっこい好意がない事を確認すると、少年を解放した。

「悪い。ちょっと勘違いした」

自らの非を素直に認めて謝罪すれば、少年はフルフルと頭を振って地面に置いてあったバケツを掴むとテテテ、と竜司に背を向けて走り出した。

「なんだそれ‥」

あまりにも素っ気ない少年の反応に竜司はポツリと呟いた。

なんとなくモヤモヤ面白くない気持ちを持て余したまま、竜司はもう一度ベンチへ横になった。

木々の間から一年(名前が分からないので)の姿が見えた。何をしているのか竜司には分からないけれど、手を泥まみれにしながら作業をしている。
楽しそうに作業をしているのが分かり見ているだけで和んだ。

なんとなく居心地の良い空間。日頃ささくれ立っていた神経が知らず穏やかになっていることに気付かず竜司は再び夢の住人へと旅立っていた。



「……の、………す…?」

「ん、ん?」

微かな声に目を覚ました竜司はいつの間にか寝ていたのか、と思った。どれぐらい寝ていたのか気がつけば日が暮れている。

パチリと目を開ければ少し離れたところに一年がちょこんと座っていた。左手にはスコップの入ったバケツ、右手にはたくさんの鍵束。

「あ?あぁ、閉めるのか?悪い、出るわ」

竜司が起き上がり出口に向かえばその後ろを一年がテテテと着いてくる。まるで親鳥の後ろを歩く雛鳥みたいだ、とファンシーな事を考えた竜司は自分らしくないと苦笑した。

施錠された事を確認した一年はペコリ、と竜司に頭を下げるとテテテと足音を響かせながら遠ざかった。

夕闇の中、一人ポツンと残された竜司はなんとなく遠ざかる小さな背中を見守った。




(それがファーストコンタクト)


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あきゅろす。
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