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9月のパンプキン
寮に戻ると紫月くんの靴の隣に僕と同じぐらいの靴がちょこんって並んでた。

今日も紫月くんは他の子と過ごすみたい。
僕が一緒に過ごせるのはいつだっけ、と思ってカレンダーを見たらまだまだ先だった。

一緒の部屋だからもっと一緒にいたいって僕は思うのに、紫月くんは同じ部屋なんだから、って他の子を優先する。

赤色でしるしをつけた日まで何日あるかを指で数えてると部屋がノックされて、紫月くんが顔を出してきた。

「真白、俺ご飯食べに行ってくるね。あと、今日は帰らないかも」

「え、っと。うん、いってらっしゃい」

紫月くんの腕にしがみついてる子が僕の事をギッ!と睨んできて、やるせなさがいっぱいになった。

早く行こ、って男の子が言うと紫月くんはそうだな、って優しく言って、2人は楽しそうに出て行っちゃった。

部屋には僕1人だけ。

カレンダーを指差して、僕は何を数えてたんだっけ…。




恩田真白は恋人の佐山紫月が他の男の子と仲良く出て行った扉をぼんやり見つめていた。

すごく胸が痛くなって視界がぼんやりにじんできて、真白は慌てて手の甲で目をこすった。

泣いて縋る男の子を紫月が突き放していたのを見てから、真白は泣くのが怖くなったのだ。

紫月が嫌なことはしない。

微笑む紫月が一番好きだから、真白は紫月に笑って貰えるように努力をする。

きゅぅ、と唇を噛み締めながら真白はベッドに寝転び、ポケットから携帯電話を取り出した。

「椿くんだ…」

先週のお昼休みから真白のもう1人の恋人となったその人物からのメールに、真白の心臓はドキンと脈打った。

昼休みの出来事を思い出してカァァと火照る。

真白、と低い声で呼ばれて、真白は顔を上げた。

椿に貰ったパンプキンプリンを食べている時だった。

あ、と思った時には椿の顔が近付いていて、ペロッと唇を舐められていた。

「ん、甘いな」

にこ、と微笑みながら言う椿に真白は持っていたスプーンをカラン、と落とした。

椿にキスをされた、と認識したとたん心臓がドキドキ騒いで、ほっぺたがリンゴみたいに真っ赤になるのが自分でもわかった。

この前だってキスまがいの事をされたけど、こんな風にはならなかったのに。

「かわい…」

「つ、ばきくん…」

椿の大きな手が真白の顔を包み込んで、また椿の顔が近付いてきた。

真白はそぅと目を閉じた。

唇に椿の吐息がかかったと思うとふにゅ、とした柔らかいものが触れた。

すぐに離れるとすぐにまた触れて、また離れる。

頬を覆っていた椿の手が真白の後頭部に移動して、もう片方の手は真白の腰に回された。

「真白、」

名前を呼ばれて真白は椿くん、と呼ぼうと口を開いたらまたキスをされる。

触れて、離れて、また優しく触れられる。

「椿くんっ」

真白は持っていたパンプキンプリンも床に落として、椿にしがみついた。

心臓がキュンと締め付けられるみたいで苦しいのに、もっと椿に触れられたくて、くっつきたい。

椿の舌に唇を舐められて、真白はお返しとばかりに椿の舌を舐めた。

ぬるりとした熱くて柔らかな椿の舌に自分のモノを絡めると、椿も同じ様に舌を絡めてきて。

ほんのりパンプキンプリンの味がするキスに、真白の心臓はドキドキ脈打つし、頭はぼんやり、指先はジンジンしてきた。

でも止めたい訳じゃない真白は更にきゅぅ、と椿に抱き付いた。
身体全部がふわふわする。

真白がはふ、と息を継いだその時。

無粋な予鈴が鳴り響いた。

「ぅ、あ、椿くん…!」

急に現実に戻ってきた真白は椿を突き飛ばして、その場を脱兎のごとく逃げ出した。

「あ、真白!」

「ご、ごめんなさい!」

心臓がドキドキして爆発しちゃいそうで、真白は悪いと思いながら立ち止まる事はしなかった。

授業中もずっとドキドキして、ようやく落ち着いたと思ったら紫月の行動にズキズキして、また椿のメールにドキドキする。

なんだか自分の心がむちゃくちゃにシェイクされたみたいで真白は困惑した。

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ご飯一緒に食べよう。デザートはプリンじゃなくてケーキにしよう。
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椿からのお誘いメールになんて返事をしようかな、メールじゃなくて電話にしちゃおうかな、なんて真白は思った。

心臓がうるさいぐらいドキドキするのに椿の声を聞きたいな、なんて思ってしまうのだ。

そこまで考えて真白は立ち上がった。

落としたプリンの片付けを忘れていたのを思い出して、携帯とお財布を握り締めて部屋を飛び出した。

ちょうど来たエレベーターに飛び乗ろうとしらそこには椿が乗っていて、真白はわ、と声を上げた。

「真白?どこ行くんだ?」

「プリンの片付けしに行こうと思って」

「お昼間のやつか?そんなの俺が片付けたから。ご飯食べに行こう」

椿はそう言いながら真白の腰を自然に抱き寄せて、エレベーターを閉めると5階のボタンを押した。

「え、ありがとう。椿くん、どこ行くの?」

「ん?俺の部屋。」

「椿くんのお部屋…?」

「そう。そこでご飯食べよう。そしたら2人きりになれるだろ?」

またキスもできるし、と真白の耳元で囁くように言うものだから真白はまた頬を真っ赤に染めた。

「椿くん、怒ってないの?」

「ん?何が?」

お昼間に椿を突き飛ばしてしまったから、椿が嫌な気になっていたらどうしようかと心配していたけど笑顔の椿を見て、真白はホッと息をついた。

「うんん、何にもない。椿くんのお部屋楽しみだな」

エレベーターという小さな密室に真白はドキドキしながら、でもこっそり椿にすり寄った。

いつの間にかズキズキした心なんてどこかに行ってしまった。


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