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肌の上を這いまわる手から逃れるように啓人は体を捻った。足をバタつかせ、目の前の男の腹を蹴り上げる。助けて、嫌だ、と叫ぶけれど啓人の脆弱な力では目の前の男たち3人に太刀打ちできるはずもなくあっさりと抵抗を封じ込まれた。

パン、と左の頬に鋭い熱が走る。容赦のない平手打ちは女性の明音のものよりも格段に威力を持っていて、ジワリと口の中に鉄の味が広がった。

「ぅ…、あ、い、いや、だ…」

それと同時に啓人の抵抗力を奪う。ガタガタと震える体は恐怖と嫌悪からだ。

「暴れんなよ、クソガキが!優しくしてやりゃ調子に乗りやがって。お前は黙って股広げりゃいいんだよ!」

腹を啓人蹴られた男が憎憎しげに言い、腕を縫いとめている男がこりゃ慰謝料を払ってもらわなきゃなんねぇな、と笑った。

「あぁ、そうだな。俺たちは優しいからお前の体で我慢してやるよ。」

もう1人の男が自分のズボンを下げ、下着から取り出した自身を啓人の口に近づけた。

「おら、口開けてしゃぶれよ。」

目の前に突き出された男の象徴。ただただ汚らわしいだけのそれから逃げるように顔を背けた。周りの男たちはゲラゲラと笑い啓人の頭まで押さえつける。

誰か、誰か。助けて。

「さっさとしやがれ!」

「ぃ、やだ…、だ、れか…!た、助け、て、たか、のさ…!」

助けを求めたとしても誰も来ないことなんて分かっていたけれど。それでも啓人は声に出した。母でも父でもなく、鷹野の名前を呼んだ。

「誰も来るわけねぇだろ!」

ズルリ、と頬に擦り付けられる感触。気持ちが悪くて仕方がなかった。頬から唇に移動してくる塊に啓人は吐き気を催した。

その時。

ドンドン、と荒々しいまでのノックが響いた。ピタリと啓人に男3人の動きは止まった。

「坊ちゃん!」

一瞬、鷹野かと期待したけれど淡い期待は裏切られた。聞きなれない声は鷹野の声ではないけれど、今朝挨拶を交わした阿坂のものだった。

「すいません、トイレお借りしていいっすか?坊ちゃーん!勝手に入っちゃいますよ!」

切羽詰った阿坂の声が徐々に近づいて来る。この部屋の前を通り過ぎなければトイレには行き着かない。偶然にもこの部屋の扉は開け放たれたままだから、きっと阿坂に発見して貰える。天の助けだ、と啓人は思った。

3人の男たちはまずいと思ったのか、顔を見合わせてチッと舌打ちをすると逃げるように部屋から出て行った。

うわ、なんだよテメェら!という阿坂の声が聞こえ、次には阿坂の顔がひょい、と現れた。

「坊ちゃん、すみません。勝手に上がらせて貰いました、って!どうしたんスか!?さっきの奴らっスか!? 」

「あ、ぁ…、ちが…」

無残に引き裂かれた服をかき合わせ、知らず小刻みに震える体を両手で抱きしめた。助かったのだと安心する間もなく、さっきの恐怖が啓人を襲う。同じ男に組しかれる屈辱と恐怖。もし、阿坂が来なければと思うとゾッとした。

「坊ちゃん、大丈夫っすか?」

しゃがんだ阿坂が心配そうに頬に手を伸ばしてきた。さっき殴られたせいで赤く腫れているからだろう。心配してくれている、そう分かっているのに啓人の体は言い知れぬ恐怖に強張った。

「あ…、すみません。無神経っした…。」

「ぁ、ち、ちがう、んです…、その、い、痛くて…」

だから触られたくないのだと、手を引っ込めた阿坂に弁解した。阿坂は少しだけ困った顔で笑い、啓人に手当てだけでもさせてくださいと申し出た。

「い、いえ、あの、だ、大丈夫、ですから…」

「ダメっすよ!坊ちゃんの綺麗なお顔にそんな痣があるなんて許せないっすから!ちょっと待っててくださいね、救急箱取ってくるっすから。」

そう言うと阿坂は部屋を飛び出した。1人だけになって、また恐怖が、嫌悪が蘇ってくる。

「…きたない、」

頬の上を何かが這っているような、おぞましい感触がして啓人はノロノロと立ち上がり洗面所に向かった。鏡の中に頬を赤く腫らした自分が映っていた。チリ、と口の中が痛んだ。

蛇口を捻り、冷水を出す。両手で水をすくい、顔を何度も洗ったがそれでもまだ気持ちが悪くてたまらなかった。

「坊ちゃん、そんなに擦ったらダメっすよ。」

後ろから唐突にかけられた声に啓人はびくりと震えて、反射的に後ろを振り返った。そこには救急箱を持った阿坂が困ったように立っていた。急に声を変えてすみません、と謝った阿坂は啓人をキッチンのイスに座らせると冷やしたタオルを啓人の赤く腫れた頬に当てた。ジンジンと熱を持った頬に心地よくて、啓人はほぅ、と息をついた。

「坊ちゃん、他に殴られた場所はありませんか?」

「な、ない、です…。」

「本当っすか?」

「は、はい…」

咄嗟に嘘をついた啓人を阿坂が射抜いた。不信に思われているのだろうが阿坂はあっさりそうっすか、と言って身を引いた。

「冷やした後はコレを貼ってくださいね。」

救急箱の中から湿布を取り出し、机の上に置くと阿坂はそぅ、と啓人を伺った。

「坊ちゃん、アイツ等どうしますか?」

「え?」

ふと啓人が阿坂の顔を見ると、阿坂の目は全く笑っていなかった。目が、ギラリと光っている。

「坊ちゃんにこんな怪我させて。ただですむわけないっすよ?」

殴り殺してきましょうか?と当然のように言われた言葉に啓人はぎょっと体を跳ねさせた。

「そ、そんな、こと…!ぼ、僕は大丈夫、です、」

物騒な言葉に啓人は身を固くして、大丈夫ですから、と繰り返した。念を押すように言ったのは阿坂の目が本気だったからだ。啓人がそう望めばきっと阿坂はそうしただろう。冗談の色合いなど全くなかった。

「そうっすか…?じゃあ、一応やめとくっす。」

不承不承ながら阿坂が頷いたことに一安心して啓人は、ほっと詰めていた息を吐いた。

「坊ちゃん、俺ちょっとしなくちゃいけないことあるんで行くっす。しっかり戸締りをしてくださいね、誰も入れちゃ駄目っすよ?」

小さい子を心配するような阿坂の物言いにも啓人はちゃんと頷いて、阿坂を玄関先まで送った。



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