ぴちち日和
篠宮学院高等部1年E組の窓際の後ろから2番目が立芳の席だ。ポカポカ陽気が立芳を優しく包み込み、午後の授業は睡魔と戦わなければならなかったが、立芳
はこの席を気に入っていた。
そこから見える中庭が好きなのだ。綺麗に手入れされた花壇や、大きく育った木。ときおり小鳥達が羽を休めるために訪れるのを授業の合間に見るのだった。
数学の授業中、こっそり外に目を向けると緑が生い茂る木の枝に小鳥が2羽。
ピチチ、と囀りながら1羽がもう1羽にすり寄った。するとすり寄られた方は嬉しそうにピチチと鳴いて、お返しとばかりに嘴で頭をつい、と啄んだ。
仲良しだぁ、いいな、なんて立芳がへんにゃり笑うものだから、よそ見をするなと言うはずだった数学教師はゴホン、と咳払いをして授業を進めるしかなかったのだった。
「はる君、さっきは何見てたの?」
数学の授業が終わると、斜め後ろの席の国枝千鶴子が声をかけてきた。
「ちづちゃん」
さっきって?と首を傾げる立芳に千鶴子は、あぁ、もう!はる君可愛すぎる!可愛すぎるわ!写真撮りたい!と心の中で悶えていた。
「授業中に外を見てたでしょ?水井先生が注意しようか悩んでたよ」
にっこり、内心の乱れを感じさせない完璧な微笑みを浮かべながら言うと、立芳はまだ仲良くピチチと囀る2羽の小鳥を指差した。
「仲良くて良いな、って」
「あ、本当。可愛い」
でも一番可愛いのははる君ですから、とは心の中で呟いて。
「はる君もいつもあんな感じなの?」
宮部先輩と、と小さな声で言った千鶴子に立芳は一拍置いてから顔を真っ赤にさせた。
「ふふ、はる君顔が真っ赤」
慌てて顔を隠そうとする立芳に、千鶴子は内心で更に悶えるのだった。
午前の授業が終了して、昼食のために竜司と颯斗、陣の4人で食堂に向かう途中。
「りゅう先輩、」
立芳は竜司の服をくんっと引っ張ると、颯斗と陣からこっそり離れて今は使われていない教室の中へ入った。
立芳の珍しい行動に竜司は何があったのだろうかと疑問に思いながらも、特に不穏な空気がないため可愛い恋人に黙って従うだけだ。
扉をしっかり閉めて竜司を椅子に座らせると、膝の上に向かい合わせで座った。
「はる?」
ん、と返事なのか返事じゃないのかよく分からない声を出して、立芳はきゅぅと竜司に抱きついた。
グリグリと肩口に額を擦り付けるものだから、立芳の柔らかな髪の毛が竜司の頬をくすぐった。
「はる、くすぐったいぞ」
クスクスと笑いながら竜司が言えば立芳は動きを止めて、ひょいっと竜司の顔を覗いたかと思えば、竜司の唇に口を重ねてきた。
自分からしたことなのに恥ずかしいのか立芳の耳がほんのりピンク色に染まっていた。
とにかく可愛いすぎる立芳の行動に竜司は腰に回していた手で立芳の頭を固定すると、離れていった立芳の唇を追いかけた。
「ふ、ぁ…」
薄く開いた唇の間から舌を侵入させて小さな舌に触れると、おずおずと竜司のそれに絡みついてくる。
くちゅ、と水音を立てながら舌を絡め合い深くキスをする。
角度を変えて余すところなく立芳の口腔を愛撫してから、ようやく竜司は唇を離した。
はふ、と顔を真っ赤にして息をつく立芳の制服の裾から手を進入させると滑らかな肌の上を指先でなぞった。
「や、りゅう先輩、お昼は…?」
ぴくん、と震えた立芳が悪戯な手を止めるように竜司の腕を掴んで、こてりと首を傾げた。
「後で、な?」
お昼ご飯を食べたい、と言う立芳の意見を一蹴して、すでに高ぶりつつある自身を下から立芳のソコに押し付けた。
「ん、ぁ…!」
「誘った立芳が悪いだろ?」
ニヤリ。肉食獣のような獰猛な顔で笑う竜司に、立芳はビクッと身体を震わせた。
お腹を空かせたライオンの前に放り出されたうさぎの気分だ。
そんなつもりで竜司を教室に連れ込んだわけじゃなく、ただちょっと甘えたかっただけなのに、と立芳は思った。
こうなった竜司から逃れる術など知らない立芳は、結局のところ竜司とそういったことをするのが嫌いなわけではないので、お昼ご飯と午後の授業は諦めて自ら
ライオンにすり寄った。
(痛くしちゃやだよ)
20110615
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