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休み時間ごとに王子の用はなんだったのか聞きに来るミーハーなやつらを完全に無視して、ようやく昼休み。

チャイムが鳴ったのと同時に立ち上がって、上の階に向かった。そこらへんにいる1年から三辻のクラスを聞き出して教室に行く。

ザワザワと騒がしい教室は俺が現れたことで一瞬で静かになった。

「三辻いるか?」

しん、とした教室に俺の声が響いて、次には三辻の嬉しそうな声が聞こえた。

「朔夜先輩!そうしたんですか?こんなところに来るなんて」

小走りに近づいてくると、まるで当然のように腕に手を伸ばしてきた。それを一歩下がることで避けて教室から連れ出した。

人が少ない廊下、といっても明らかに俺らに注目してて何があるのか興味深々だ。野次馬のようなやつらはうっとうしいが今回は好都合だ。

あのさ、と三辻をまっすぐ見つめ、俺は声をかけた。何を期待しているのかほほを赤くして見つめ返してくる三辻。
マジでうぜ。

「知ってると思うけど、俺、太陽と付き合ってるから」

「え?」

「だから俺にまとわりつくのやめてくれ。俺、太陽にしか興味ねぇから」

三辻は一瞬何を言われたのか分らないとでも言う風にぽかんと口を開けていたが、顔を真っ赤にして言い返してきた。

「あ、あんな子より!絶対僕のほうが朔夜先輩に似合ってます!バスケの話だってできるし!エッチだって絶対に満足させれます!」

どっからその自信が出てくるのか呆れる。

「あっそ。さっきも言ったけどさ、俺、太陽にしか興味ねぇから。したいだけなら他をあたれよ。じゃあな」

プライドに触ったのか三辻はさらに顔を真っ赤にしたけどもう何も言い返してこなかった。くるっと三辻に背中を向けると、こっちを伺っていた1年が気まずそうに顔をそらした。これで三辻が振られたことは多分今日中に広がってしまうだろう。
太陽に余計なことを言った罰だ。

早々に1年の階をあとにして、3年の教室に向かった。目的は村松だ。
聞いていた教室に本人はいなくて、扉のすぐそばにいた人に聞いてみた。

「すんません、村松さんってどこにいるんすか?」

「あっれー!君2年の有名人じゃん!なになに、東雲と何かあった??」

「いや、あの…」

「セフレの取り合い?寝取られた?あれ?でも君、本命できたんじゃなかったっけ?」

声をかけた相手が悪かった。村松の知り合いらしいが人の話を聞いちゃいねぇ。

「まぁさ、君もイケメンだけど東雲には、な!なんつーの、東雲はさカリスマ?神?みたいな!!あいつなら俺抱かれてもいいかな!や、でもやっぱ無理!」

キャーってひげ面が言っても可愛くねぇから。正直きしょい。

「あの、その東雲さんはどこにいるんすか?」

「んだよ、イケメン君ノリ悪いー!まぁいいけど。東雲ならいつもの場所じゃね?ほら、特別棟の、どっか?」

どっかってどこなんだよ!どっかって!

イラッとしながらもお礼を言って特別棟に向かった。後から頑張れよーとか聞こえたけど軽く無視って走る。

45分あるはずの休み時間は気づけば残り20分になっていた。



1階から順番に扉を開けて村松がいないか確認する。鍵がかかっている教室が多いけど、とりあえず村松の名前を呼ぶ。無人の教室に向かって何してるんだ、と頭の片隅で思いながら俺はやめなかった。

村松は絶対に反応してくる自身があったし、俺を待ってるんじゃねぇかって思いがあった。

1階から3階を終えて、4階にある第二視聴覚室。するりと簡単に開いた扉の向こう側に、探していた村松がいた。

「大友朔夜君、遅かったね?」

「は、ぁ…。村松東雲」

走っていたせいで弾む息を何とか押さえて真正面から村松を見る。

「太陽の家どこだ。教えろ」

「なんで?」

ニコリと笑いながら村松は言う。

「太陽に話があるからに決まってんだろ。こっちは別れるつもりなんてねぇんだよ!」

「ふ―ん・・・」

イスに座っていた村松が立ち上がって近づいてくる。近づかれると視線があがるのは村松のほうがタッパがあるからだ。こんなところでも負けた様な気分になったけど、それを気取られないように目線をそらさないでいると、唐突に胸倉をつかまれ。

「んっ!?」

目の前にはドアップの村松の顔。そして口の中に入り込んでくるぬるりとしたもの。

村松にキスをされているのだと気づいたときには思いっきり村松を突き飛ばしながら、体を後に引いた。

「っ!てめぇ!何のつもりだよ!」

カッターシャツの袖で口を拭いながら睨み付ければ、村松は自分の唇をぺろりと舐めてクツリと笑った。

「んー?嫌がらせかな?そんなに嫌がらなくてもいいと思うけど」

「ふざけんな」

「あれ?そんな口聞いていいのかい?これ、いるんじゃない?」

胸ポケットから取り出した銀色に鈍く光る鍵と小さな紙と顔の横にかざしてひらひら振る村松。

「太陽の家の鍵。いらないかな?」

なにを当然のようにお前が持ってやがる、と苛立つ気持ちを押さえながら渡せ、と片手を突き出す。と、村松はハン、と笑った。

「それが人に物を頼む態度?君が太陽に話があろうとなかろうと、僕には関係ないんだよ。それに太陽は僕のものだし?」

お得意の綺麗な笑みを浮かべて、ひらひらさせていたそれを胸ポケットに戻そうとする村松に俺は焦って、待て!!と声をかけた。

「ん?」

「…待って、ください。」

ムカつくことこの上ないが俺はがばっと頭を下げた。

「その鍵を渡してください。お願いします」

こんな風に頭を下げて人に物を頼むなんてしたことがねぇけど。これで太陽のところにいけるなら安いもんだと思う。

…まぁかなりムカつくけど。力ずくじゃ無理だってことは痛む腹が知ってるし。

「…仕方がないなぁ。そこまで言うならいいよ」

村松の言葉に頭を上げると、はい、とやけにあっさり渡される。

「家には太陽しかいないから勝手に入ったらいいよ。それで早く別れ話すませてね?」

「誰がするか!」

村松を睨み付けてから、渡された鍵と小さな紙を握り締め学校を飛び出した。



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あきゅろす。
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