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五月がバイトでいない夜、浩介は久々に友人から誘われた飲み会に参加していた。
大学で一緒にいるメンバーのほかに知らない女たちがいるのは誰かが誘ったからだろう。
まるで合コンのようなノリに、肌を露出した女が熱っぽく見つめてくるのから逃れ、浩介は店の隅で酒を煽った。
浩介がそっけないことで諦めたのか、他の男に媚を売るように寄りかかっている彼女たちにウンザリしながら、今頃恋人はどうしているのかと思いを馳せた。接客があまり得意ではないと零していたが精一杯頑張っているに違いない。
健気な恋人の姿を思い浮かべる、それだけで何とも幸せになれる自分に苦笑を漏らした。
「よっ、浩介!」
「おぅ、とし」
浩介の横にどかりと座ったのは田口利樹だ。高校が同じだったことから大学に入ってからよく行動を共にするようになった。野球をしているせいでその体はいつも日に焼けている。
「あー、あのさ、浩介って本木ゼミだよな?」
「ん、そうだけど」
ジョッキを傾けながら返事をすれば、田口はどこか言い辛そうに明後日の方向に顔を向け小さく言った。
「でさ、羽山五月っているよ、な?」
思わぬ人物から出てきた恋人の名前に、ドキリと心臓が跳ねる。
「…いるけど。それが?」
五月と田口の接点を一瞬で探そうとしたが、同じ大学の同じ学部だということしか思いつかなかった。
「あー、のさ。紹介っての?羽山と仲良くなりたいんだけど…?無理か?」
照れくさそうに言う田口に、浩介は思わず目を見開いた。下を向いている田口がそれに気づくことはなく、ポツポツと言葉を零している。
「羽山がさ、バイトしてる店に結構行くんだけどさ。すげぇ綺麗でさ。あ、男に綺麗とか変だって分ってんだけど…。その、なんつーの、色っぽいんだよな。キャンパスでも羽山がいないか探しちまうし。…俺ってきしょい?」
「いや、そんなことねぇけど…、」
けど、五月のことを、まるで以前から知っていた田口に驚きを隠せない。
「まじ?良かった!でな、浩介は羽山と同じゼミだろ?ご飯とかいかねぇの?」
「アー…、俺あんまし羽山としゃべったことないから…」
思わず浩介から出たのはそんな言葉だった。ここでもし仲がいいなどと言えば田口は間違いなく紹介してくれと言ってきただろう。田口のことが嫌いだから、とかではなくその目にほんの少しの欲望の色が見えたから。だからわざわざ自分の恋人を紹介するつもりなどない。小さな嘘に気まずくて、浩介は目を彷徨わせた。
「そっか、無理かぁ。まぁ、仕方がねぇよな。羽山って少し近寄りがたいからなぁ。」
綺麗すぎて、話しかけづらいんだよ、と言う田口に、それは確かにそうだと思う。五月の周りだけどこか澄んだ空気が流れていて、他人の侵入を拒んでいるように見える。
浩介が五月と手に入れることが出来たのも、あの日ゼミ飲みがなければなかったのかもしれないのだ。
「それにさぁ、羽山って付き合ってるやついるっぽいし…」
「えっ?」
浩介は勢いよく田口を振り返った。まさか、バレているのかと焦る浩介に田口は気づかず声のトーンを落とすと、ここだけの話な、と切り出した。
「バイト先の人と付き合ってるっぽいんだよ。ほら、俺らの2個上に吉田先輩っていたじゃん、サッカー部の。あ、悪い、男同士とかきしょいよな。でも羽山のこと悪く思うなよ?俺が勝手に気になって気づいちまっただけだからさ。」
でもさ、あの2人ならありだと思わねぇ?お似合いだし、と隣で1人頷いている田口に何とか、あぁ、うん、とあいまいな返事をながら、浩介はジョッキを一気に煽った。
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