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今日は昨日の雨がうそみたいに晴れていて、どこまでも青空が広がっている。SHRが始まるより少し早く教室に入るとなぜかいっせいにクラスメイトが俺のほうを向いてきた。
あまりにも息が合いすぎた動きに思わず練習したのかと聞きたくなってしまったが、ふと俺の席を見て皆の行動がなんとなく分った。

「おはよう。大友朔夜くん?」

そこにはこの学校の伝説で、太陽の幼馴染らしい村松東雲がいた。

優雅に座っていた村松は立ち上がると俺に近づいてきた。初めて間近で見る村松は嫌味なぐらいにスタイルが良くて、男の俺から見てもカッコいいと思うほどに整った顔をしていた。

村松がにこり、と微笑めば教室のあちこちからキャーというかギャーという野太い声が上がった。

「少し話があるんだ。いいかな?」

きっと太陽関係のことなんだろう。それ以外村松がここまで来る理由が思いつかない。

俺が無言でうなずくと村松はにっこり笑って

「じゃあ、場所変えようか」

と言った。

2人で教室を出て行こうとすれば、行かないでだのなんだの別れ(?)を惜しむ声が上がった。

「また会いに来るよ。じゃあね。」

村松がやわらかく笑ってパチッとウィンクをすれば一瞬で静かになった。倒れこむやつがいたような気がしたが俺の見間違いだと思っておこう…。

廊下を歩くたびに声をかれられる村松はその度に返事をしたり、手を振ったり、挙句の果てには投げキスまでしていていた。

顔を真っ赤にして喜ぶ同学年の男は見なかったふりをしても、伝説の片鱗を垣間見たような気分だ。

校舎の端にある空き教室に入ると村松はイスに座り、長い足を組んだ。俺も近くの机に座った。
けれど村松は何も言い出さない。気まずい沈黙に耐えられなくなり、俺は口を開いた。

「…あの、何の用っすか?」

「あ、ごめんね。ちょっと昨日のことを思い出してて…」

ふふ、と村松は嬉しそうに笑った。なんとなく馬鹿にされたような感じがしてイラっとしたが顔に出さずに続きを待った。

「あのね、別れ話なら早くしてあげてね。新しい恋人にも失礼でしょ。」

「は?」

「あ、もしかして自然消滅を狙ってる?それは駄目だよ。ちゃんと言ってあげなくちゃ。」

「や、何の話しっすか…?」

「ん?太陽と君の話だけど。もしかしてもう別れた気でいた?駄目駄目!太陽にははっきり言ってあげなくちゃ。可哀想だよ。」

「だから!!何の話なんだよ!」

村松の言っている意味が分らなくて、思わずため口になってしまったが今はそんなことはどうでもいい。

誰と誰が別れただ?

「だって君、太陽のこと本気じゃないんでしょ?」

「はぁ?」

話の流れについていけないし、何がどうなったらそうなるのか意味が分らない。

「太陽の目の前で他の子とキスしたり、腕組んだり。それに連絡も取れないみたいだしね。それって間接的に別れようって言ってるようなものだよね。」

にっこり、と笑って村松は言った。

俺は一瞬考えて、思い当たる出来事を思い出してあ、となった。

「すごく噂になってたよ?相手の子がわざわざ太陽のところまで言いに来たみたいだし。」

間違いなく三辻だ。

「なんて言ったんだ」

「さぁ?…ねぇ、知ってる?今日太陽お休みなんだよ。なんでか分る?」

「…昨日、体調が良くないって…」

部活を早退したぐらいだ。悪化でもしたのだろうか。

「ふふ、昨日帰ってくるなり、泣いて僕にすがり付いてきたの。可哀相に目を真っ赤にしちゃって…。だからね、慰めてあげたんだ。身も心も、ね。」

村松の言葉に一瞬固まる。

何を言ってるんだ…?

「ちょっと激しくしすぎたみたいでね。だから、今日はお休み。」

「昨日の太陽すごく厭らしかったなー。」

「ね、太陽っていい声で鳴くよね?」

カッとなった。

何を、したんだ。

こいつも、あの体を見て、あの声を聞いたのか!

目の前が真っ赤に染まった。

アレは全部、全部俺のもんだ。

こぶしを握って、その綺麗な顔めがけて殴りかかった。だが、軽くかわされて、次の瞬間には腹に強烈な痛みが走った。

「ぐっ…ぁ、」

ガクっと膝をつく俺に、村松は手をプラプラさせながら相変わらず笑っていた。

「怒らないでよ。僕のほうが怒ってるんだから。」

笑っていたかと思うとスッと表情が消えて、驚くほど鋭く俺を睨み付けてきた。

「太陽は俺のもんなんだよ。さっさと手を引け」

周囲の温度がぐっと下がったような気がして、肌がぞわりと粟立つ。だが、次の瞬間には村松は笑っていた。

「話はそれだけ。じゃあね、大友朔夜くん?」

俺を覗き込んで、バイバイと手を振ると村松は教室を出て行った。

「…はぁー…」

後にそのまま倒れこんで天井を仰ぐ。

何もかも負けた気がした。

悔しい、と思うのはかなり久々だ。ズクズク痛む腹部が俺を少しだけ冷静にしてくれる。

村松の話は本当なんだろうか…。幼馴染だっつってたけど。

でもあの村松の勝ち誇った、自身ある顔。

もし、もしも本当だったとしても。太陽を手放すつもりなんてねぇ。

ほんの少し前ならすぐに切り捨てていただろうし、ましてや呼び出しに答えることなんてなかっただろうけど。

太陽は、違う。

腹筋に力を入れて起き上がって、俺は教室に向かった。



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あきゅろす。
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