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携帯を没収された次の日。起きてすぐ時間を確認するためにいつもの癖で携帯を探してしまったがすぐに思い出して普段見ることのない壁時計に目をやる。

時間確認と暇つぶしに使うぐらいでめったに電話やメールをすることはないから携帯がなくても特に不便には感じない。流やクラスメイトは学校で会うし、太陽も昼休みには教室に来る。それでもなんだか違和感を拭えないまま学校に向かった。

俺にしては珍しく1時間目から4時間目までちゃんと起きて授業を受けた。休み時間ごとに流が来て、

「何しでかしたんだよ?」

とニヤつきながら言ってくるのを無視して、ようやく昼休み。終了のチャイムが鳴って暫くするといつものように太陽がやってきた。

「陽ちゃん、今日も可愛いねー!」

「調子はどう、陽ちゃん!」

クラスメイトにきちんと返事を返す太陽を律儀なやつだ、と思いながら必要以上に太陽に構うやつらが少しおもしろくない。そんな気持ちを表には出さず立ち上がると、いつものように何も声をかけずに教室を出ようとしたが、寸前に太陽が慌ててこっちに向かってきた。

「さく先輩!」

ん?今日は太陽のやつ弁当を持ってねぇな。

「あの、今日からしばらく昼休みも練習することになったんで一緒にご飯食べれないんです。」

申し訳なさそうに寂しそうに言う太陽が、耳と尻尾を垂らしている子犬の姿に見えてしまう。

「分ったよ。」

日に焼けて少し痛んでいる髪の毛をくしゃりとかき混ぜてやると、太陽はこっちが照れるぐらい嬉しそうに笑った。

「あー…、頑張れよ?」

「はい!ありがとうございます!!じゃあ、オレ行ってきます!」

ペコ、と頭を下げて出て行こうとした太陽とほぼ同時。

「朔夜先パーイ?」

前の扉から昨日のやつが入ってきた。ひくん、と肩を揺らしたかと思うと太陽は顔も上げずに走り出した。

あ、携帯を取り上げられたこと言うの忘れちまったや…。たまに太陽から連絡が来るから伝えとこうと思ったけど、どうせ1週間後には返ってくるし別にいいか。

俺はそんなことをのん気に思っていた。

「朔夜先輩?どうしたんですか?」

気づけば三辻がすぐそばまで来て俺を見上げていた。媚を売るような誘うようなその仕草は少し前なら何も思わずに受け流していただろうけど今は正直ウザい。太陽と付き合いだしてからそーいうお誘いは減ったけど未だに誘ってくるやつはいる。こいつもその部類なんだろう。相手をする気はないと俺は三辻に背を向けるとスタスタ歩き出した。

っつーのに、三辻は当然のように俺の後をついてきた。

「朔夜先輩!待ってくださいよー!!」

まじで!空気読めよな!心の中で悪態をついて俺は小さくため息をついた。





月曜日。新しい週はあいにくの雨で始まった。朝から降り続いているそれは気分を憂鬱にさせる。

先週太陽が昼休みに来れないと言ってきてから、まるで太陽の代わりかのようにまとわりついてくる三辻の存在も俺を憂鬱にさせる原因の1つだ。どれだけ態度で表しても気にすることなくついてきては、ベラベラ聞いてもいないことを話す。いい加減にはっきり言ってしまったほうがいいのだろう。ここ最近癖になりつつあるため息をついた。

まだ降り続いている雨のせいでグラウンドには大きな水溜りがいくつもできている。この分なら部活も出来ないだろう。

久々に太陽が来るかもしれないと期待した俺に、4時間目の終了と同時に教材を職員室まで運べと名指しで指名されてしまった。いつもサボっていることと携帯のことでの嫌がらせなのか。田先のやろう、と悪態をつきながらそれでもおとなしく職員室まで運んでやる。そして早々に退室しようとする俺を田先が呼び止めた気もしたが聞こえないふりをしてそのまま出てやった。
俺みたいな不真面目なやつに職員室の空気はあわねぇ。

2年の教室に戻るかそれともいつもの空き教室に行くか一瞬悩んで、結局2年の教室に戻ることにした。俺がいなければ太陽にこれでもかと構うクラスメイトのやつがいるから、太陽が教室に留まっている可能性は高い。

教室で出会えればどこか別の空き教室に行けばいい。

両手をポケットに突っ込んで、2つ上の階を目指す。あと1階上れば2年の教室に着くというとき、踊り場に三辻が、おそらく同級生であろうやつといた。

なんだってこんなにあってしまうんだか…。

向こうも目ざとく俺に気づいたようで「朔夜先輩!」と言いながら手を振ってきた。それを無視して俺は足早に踊り場を抜け、教室に向かおうとしたが後からやっぱり、というかなんと言うか、三辻が追いかけてきた。

「待ってくださいよー!もう、朔夜先輩ってば!」

腕をつかまれたが止まることなく進めば、腕を掴んだまま三辻は着いてきた。

鬱陶しいことこの上ないが上りかけの階段で振り払うのは危ないからと、そのままにして登り終えたとき。

「あ、朔先輩!」

「太陽!」

おれを探しに来ていたの太陽と偶然に出会った。だが、いつもなら嬉しそうに笑って近づいてくる太陽が今日はなぜだか悲しそうな顔をして。その原因にはっと気づいた俺が三辻を振り払おうとしたがそれより早く太陽は失礼します、といったかと思うと俺とは逆方向に走り出した。

「おいっ!太陽!」

呼び止める声にも立ち止まらない太陽を追いかけようとしたが、腕に絡みついた三辻に腕を引っ張られそれを阻まれた。

くそっ、なんだよ!にらみつける勢いで三辻を見たが、どこまでも空気を読まないそいつは嬉しそうに笑って

「ご飯食べに行きましょうよ。」

と言ってきた。いい加減本気でうっとうしくなった俺は三辻を乱暴に振り払うとズカズカ廊下を歩いた。三辻が倒れた気もするがそんなこと構っていられない。

三辻も鬱陶しいが、太陽も太陽だ。いつもならバカみたいに自分の気持ちをストレートにぶつけてくるくせに、逃げやがって。なんなんだよ!イライラする。三辻も太陽も。そしてこんなに他人に心を揺さぶられる自分も。

空き教室に着くと俺はいつもの場所に寝転び目を閉じた。






「さく!おい、起きろよ!!」

でかい声で俺の意識は覚醒した。

「よぅ、流…」

「よぅ、じゃねぇ!!もう放課後だぞ。」

目を開けると流があきれた顔で俺を見ていた。ジャージに着替えているということはこの雨の中部活をするつもりらしい。固まった筋肉をほぐすように首を回して、教室の時計を見るとすでに5時を回っていた。

「お前部活は?」

「今休憩中。あのさ、お前陽ちゃんに何かした?」

「はぁ?」

流が心配顔で俺に聞いてくる。

「なんかさー、最近陽ちゃん元気がなくて。部活中もあんまり集中してなくて、どんどん顔色悪くなってくからさっき帰らせたんだけど。陽ちゃんらしくないって言うか、なんていうか…」

言いよどむ流に、俺ははっと気づいた。もしかしたら昼休みのことを気にしているのかもしれない。付き合っているやつが知らないやつと腕を組んでいるところを見たら気を悪くするのは当然だ。

さっきの事を軽く説明すると、流は少しあきれた顔をしてお前が悪いと言われた。

「でも、ここ最近ずっとだからそれが原因じゃないと思うんだよな…」

「でもほかに心当たりはないぜ?」

「んー。試合のことでナーバスになってんのかな。陽ちゃんそういうのも一直線ぽいし。」

それは確かにありえる。

「とりあえず連絡してやって。と、部活戻るわ!じゃあな!」

「あぁ、分ったよ。」

慌ただしく出て行く流に手を振って俺はあっとなった。携帯没収されてるから連絡できねぇんだった…。

太陽が不調なのは気になったが、どうせ明日の放課後には携帯が帰ってくるからその後でいいか、と俺は荷物を取りに教室に向かった。


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あきゅろす。
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