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太陽と付き合いだしてそろそろ1ヶ月。長いようで短いその間に太陽の事が少しずつ分かってきた。
太陽は何にでもまっすぐで人を疑うということをしない、馬鹿正直なやつだ(これは薄々気付いてたけど)。いつだって全力で、会う度に注がれる熱い眼差しは嫌いじゃない。
くるくる変わる表情も小さな体も、どんどん俺の中で大切なものになり始めていた。
増えオニ
4時間目をサボって俺はお決まりの場所にいた。終了のチャイムの音を微睡む意識の中で聞きながらそろそろ起きなくてはと思う。でも今日の朝方までTVを見ていたせいで体は睡眠を欲していた。
しばらくすると扉が開く音がして、誰かがこっちに近付いてくる気配がする。あぁ、きっと太陽だ。
「先輩?」
囁くような小さな声に誘われるままうっすら目を開いた。目の前にある顔は逆光ではっきり見えなかったけど俺は当然のように顔を引き寄せると唇を奪った。唇同士をくっつけるだけの幼稚なキスは太陽のお気に入りだ。
その時また扉の開く音がして、太陽の唇が離れた。一拍おいた後バタバタと遠ざかる足音が聞こえて。
あー…、めったに人が来ねぇから油断した。
きっと顔を真っ赤にしてる太陽を見てやりたいと思ったけど俺は眠すぎて目を開けれなかった。
「悪ぃ…ね、る…」
そのまま俺の意識は闇へ落ちていった。
次の日は真面目に(と言ってもほとんど寝てる)授業に出て、4時間目が終わると教室に来た太陽といつもの場所に向かう。
「朔先輩、あの…」
「あ?なんだ?」
いつも無駄に元気な太陽がどこか沈んでいて。いつもなら喜んで隣を歩くのに今日は何故だか1歩後ろにいる。
「…やっぱり何でもないです…」
「なんだそれ」
変な態度の太陽に、俺はきっと部活で何かあったんだろうと考えた。夏休みにあるデカい大会にレギュラーとして登録されたと喜んでいたのはほんの数日前のことだ。
それでさらに気合いが入ったのか太陽は以前にも増して部活に励んでいた。
前よりも黒くなったなと思いながら服の下は驚く程白いことを俺は知っている。
下手な言葉をかけるよりも何も言わない方がいいだろと俺は何も言わなかった。まぁ、正直なとこ励ましの言葉なんかが思い付かなかったからだけど。
けどここで太陽の話をちゃんと聞き出せば良かったと俺は後悔する事になる。
普段使われていない教室はもっぱら俺のテリトリーになりつつあるが今日は中に人がいた。
「あ、先輩!」
ソイツは俺達を認めると嬉しそうに笑った。誰だコイツ、と思ってる間に近付いてきたかと思うと待ってたんです、と俺に向かって言ってきた。
敬語を使っているから1年なんだろう。けど太陽よりも少し背が高いぐらいのソイツに見覚えはなかった。
コイツに出ていって貰うか場所を変えるか、どうすると振り向いた太陽は何故か顔面蒼白になっていて。
「おい、太陽?」
「あ、の。オレ用事思い出したんで、行きます…」
それだけ言うと太陽はくるりと背を向けて走り出した。それに何故か焦りを感じて追いかけようと1歩踏み出したが、すぐにアホらしくなって止める。どうせ明日もくるんだし。
変わりに知らない奴がいる教室に入った。
「僕、凄く先輩に憧れてたんです!だから高校が同じだって知ってめちゃくちゃ嬉しかったんですよ!」
何が嬉しいのかキラキラした目で話すソイツは三辻和基と言って同じ地区の違う中学出身でバスケ部だったらしい。
俺も中学の時はバスケ部で、その時に出た大会で何度も見たことがあると聞いてもいないのに話した。
「朔夜先輩って凄く巧かったですよね。なんで高校ではしないんですか?」
「…めんどくせぇから。」
中学は強制だったから仕方がなく入部したが高校に入ってまでしたくもない。ついでにおまえの存在もめんどくせぇと言ってやりたかったがそれはなんとか堪えた。
それから三辻は延々自分の喋りたいことを喋ってたまに俺に話をふってくる。いい加減イライラしてきた俺はかなり不機嫌に
「お前まだいんの?」
と言った。
「はい!だってまだ予鈴まで時間ありますから!」
三辻のあまりの空気の読めなさに俺はがっくり頭を垂れた。
昼休みいっぱい三辻に付き合わされた俺は教室で机にうなだれかかっていた。SHRが終わって部活に行く奴や帰る奴で騒がしいが三辻に付き合わされるより大分いい。
「さーく!どうした?」
「あー…、流。」
「なんか疲れてね?」
テニスバッグをしょった流がのぞき込んできた。コイツも黒くなったなーなんて思いながら、何でもねぇと答える。
「あっそ。じゃあ俺陽ちゃんとラブラブ放課後デートしてくるわ!」
「はいはい…」
こいつは何かあってもなくてもからかいに来やがって。どうせただの部活だろうが。じゃあな、と言って教室を出る流の背中、つーかテニスバッグを見てると無性に太陽に会いたくなった。
背負ってんだか背負われてんだかわかんねぇぐらいデカいテニスバッグを持った太陽。あー…癒されたい気分。今日は太陽を待ってやるか。
後ろの棚にある文庫本を手に取りページをめくった。
1冊読み終えた頃には教室は夕日色に染まっていた。そろそろ部活も終わる頃だろう。携帯を取り出すと時間を確認して太陽にメールを送ろうとした。その時。
教室の扉が開いて、誰かが入ってきた。誰だよ、と思って顔を上げて舌打ちをしたくなった。
「大友、手に持ってるのは何だ?」
学年主任の田崎だ。この学校は進学校と言うことで校内に携帯持ち込み禁止と言う古臭い校則があった。
俺の手の中には誤魔化しようのない携帯。
「職員室に行くぞ。」
よりによって頭の固い田崎に見つかるなんてマジで最悪だ。ありえねー!
職員室に着くと田崎から説教を喰らい、最後には反省文提出と言う嬉しくないプレゼントをもらった。
漸く解放された頃には辺りは薄暗く、校内には人の気配がなかった。もう太陽も帰っちまっただろうし、何より連絡を取る手段がなかった。
ついてない1日に俺は真剣にため息をついた。
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