9 12月最初の土曜日。今にも雨が降り出しそうな、どんよりとした天気の中、五月は浩介の家に向かっていた。以前から今日は浩介の家でゆっくりしようと約束していたのだ。 その道すがら五月は自分たちの事を考えた。 ゼミがきっかけに知り合い付き合いが始まり、すぐに夏休みに入った。1日もあけずにお互いの家を行き来して、8月の終わりに浩介に抱かれた。 本当に幸せで、ずっとこのままだと思っていた。倦怠期なんて、そんなものと思っていたのに。 進に大丈夫と言ったけれど本当は浩介が他の女の人といるのを見ただけで胸が苦しくなる。ちくちくと針が突き刺さるような痛みはずっと続いていて正直なところ浩介との関係に疑問もあるし疲れていた。 でも、やっぱり好きで別れる事なんて考えられない。別れてしまったらきっともっと胸の痛みが増える。 好きで仕方ないから1週間に1度の逢瀬を大切にしたい。そう思いながら五月は浩介の部屋の呼び鈴を鳴らした。 けれど一向に返答がなく、五月は携帯を手に取り電話をかけた。しかし浩介は出ず、五月は嫌な予感がしながらもスペアキーでドアを開けた。 浩介のデカい靴の隣に、華奢なパンプスが並べてあって。それを見ただけで五月は予想がついたけれど、それでももしかしたらただの友達かもしれない。 そんな希望を抱いて静かに浩介の寝室をあけた。 「ーーっ!!」 セミダブルのベッドに横たわった2人。布団から覗く方は素肌で。五月の儚い希望はあっさりと破られた。 見ていたくなくて五月は乱暴に寝室の扉を閉め、靴をひっかけるようにはくと走ってマンションを飛び出した。 自分の家に着くと五月はその場にズルズルと座り込んだ。久しぶりに思いっきり走ったせいで息はきれ、寒さを防ぐために着たダウンは暑くてたまらなく、額から汗が流れ落ちた。 「はぁっ、はぁっ…」 久々の運動が辛いせいか、さっきの光景のせいか、心臓がドクドクと大きく打っている。 浩介が女の子と並んで歩いているところは今まで何度も見てきたけれど。 浩介の部屋で見るのは初めてだった。遊びに行って、五月の私物は多くあるけど女の人の影はなくて、部屋に入れてもらえるのは自分だけだと思っていたの。 けど。それも勘違いだったのだと知ってしまった。 今まで気づかなかっただけで浩介は何人も女の人を部屋に連れ込んでいたのかもしれない。なにも知らない自分はそこで浩介に好きだと囁かれて嬉しく思っていたのに。 自分の間抜けさに五月は自嘲の笑いをもらした。 その時、ポケットに突っ込んだ携帯が震えだした。ディスプレイには『三村浩介』の4文字。 五月は息を吐き、心を落ち着かせると通話ボタンを押した。 ←→ [戻る] |