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結局五月は店が閉まるまで控え室にいた。いても迷惑だから帰ります、と言っても1人で帰らせると危ないと言われ帰らせてもらえなかった。

休憩のために入れ替わり立ち替わりスタッフが控え室に来ては皆五月を心配した。そして皆、あまりその顔で見つめるな、と言って顔を背けるのでそんなにひどい顔をしているのかと五月は不安になり大人しくソファに座っていた。






「羽山、帰ろうか!」

「え、でもまだ12時ですよ?」

12時に閉店し、その後後かたづけなどをしていると帰るのは1時頃になる。それなのに昇司は12時過ぎに控え室に来て、テキパキと五月の荷物を持って、コートを羽織らせた。

「店長が早く送ってやれって。ほら、うちの看板娘に何かあったら困るからな。」

「看板娘って…」

「さ、俺がバイクで送ってやるから。羽山送ったら俺も片づけに戻るし。」

自分を送るためだけに抜けてくれるのが申し訳なくて五月は眉尻をさげた。

「人の好意は素直に受け取っときな。」

「はい…。ありがとうございます。」

結局昇司に送ってもらうことになり、中型のバイクの後ろに乗せてもらった。あっという間に五月の住むマンションまでついた。

「本当にありがとうございました。」

五月はバイクから下りるとぺこ、と頭を下げた。

「良いって。何があったか知らないけどあんま無理すんなよ?」

「はい……」

「じゃあな。しっかり休めよ!」

昇司はそう言って去っていった。五月はその背中が見えなくなるまでその場で見送るとマンションに向かった。

カチャ、と扉を開けるとソコには見慣れた大きな靴。

「え…?」

「おかえり、五月。」

「……浩介、なんで……」

あの女の人と一緒じゃないの?

ドクンと心臓が大きく打ち、さっき見た光景が蘇ってきてイヤな気持ちがいっぱいになった。

「五月が体調崩したって聞いて。大丈夫か?」

浩介は五月の腕を取ると部屋の中へ連れて行った。五月の為にであろう、室内は程良く暖められてあった。

「風邪かな?最近寒いからな。ほら、コート脱いで早く寝な。」

「う、うん。」

言われるがままに五月は着替えベッドに押し込まれた。

「何かいるものあるか?とりあえず必要そうなのは買っといたけど…」

コンビニの袋からスポーツドリンク、熱さましシート、風邪薬などを取り出しまくら元に置くと、浩介は少し冷たい手で五月の額を触った。

「うーん……。そんなに熱はなさそうだな」

「う、うん。あの、ごめんね…」

「気にすんな。よく寝て早く良くなってくれよ。」

布団の中から申し訳なさそうに謝る五月に浩介はニッコリ笑いながら返し、慈しむように五月の頭を撫でた。

あまりに優しい顔で自分を見るものだから、五月は赤くなった顔を見られないように寝返りを打った。

「五月…」

「ん?」

「……何か言いたいことあったら、言えよ。」

「う、ん…。なにも、ないよ…。」

嘘だ。本当はさっきのあの女の人の事、今まで聞いた話のこと、全部聞きたかったけど。みっともなく泣き喚いてでも問いただしたい。

けれど。もしそれで聞きたくもない答えが返ってきたら、そう思うだけで五月は聞けなかった。布団の中でギュッと手を握りしめて、五月は耐えた。

「…そっか。……ご飯は食ったか?食ったなら薬飲んで。」

「うん。ありがとう…。」

一通り世話をしてもらって、薬のせいか五月は気づけば夢の中に旅立っていた。








ふと夜中に目が覚め、浩介は帰ったのかと暗闇の中目を凝らすとソファの上に人影を発見し、五月はホッと安心してまた目を閉じた。

もしかしたら、もう帰っているかもしれない、さっきの女の人のところに行ったのかもしれない、そう思ったのだ。

けれど浩介はそこにいて、距離はあれど久しぶりに一緒に過ごす夜に五月は不謹慎ながらも喜んだ。

それから五月は朝までぐっすりと眠った。その喜びが長く続かないことも知らずに。











昨日の頭痛はすっかり消え、五月は進とカフェテリアにいた。昨日の事には触れず当たり障りのない話をして時間を潰しているとき。

カフェテリアの向こう側にいる人物を見て進は眉間に皺を寄せた。あからさまに不機嫌になる進が珍しく、五月は進の視線を追うとそこには浩介とまた知らない女の人がいた。

「さっちゃん、本当に良いの?」

浩介を睨み付けたまま進が問えば五月は微笑みながら、うん、と頷いた。

浩介に腕を絡めて歩く、ふわふわの髪の小柄な女の人は昨日バイト先で見た人ではなくて。

コロコロ変わる相手は1週間と続かず、その中で自分だけ唯一続いているのだと思うとそれだけで十分だった。

これ以上何かを求めてこの関係が壊れるのが怖い。

「そりゃ、辛いし疲れることもあるけど…、でもやっぱり好きなんだ。…だから大丈夫。」

はっきりそう言えば進はあまり納得していない表情でため息をついた。

「さっちゃんがそれで良いなら良いけど……。辛くなったらいつでも相談しにおいでよ?」

「うん、ありがとう。」

進の優しさに五月は笑顔で返事をした。


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あきゅろす。
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