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いつの間にか眠ってしまったようで、五月は放り出したままの鞄から聞こえるバイブ音で目が覚めた。

起き上がると鈍く頭が痛んだが振動を続ける携帯をぼんやりしたままとった。

「もしもし…」

『羽山か!今どこにいるんだ!?バイト始まってるぞ!』

この声は…。

「昇司さん…?」

『どうした?体調悪いのか?』

じわじわと正気に戻り時計を見るとすでに6時を過ぎていた。

「あっ!!すみませんっ!!オレ寝てて!今から行きます!」

『寝てただけか、心配させるなよ。まだ忙しくないけど早めに来てくれよ。』

「はい。すみません。」

通話を切ると五月は慌ててバイト先に向かった。




「遅れてすみません!」

店に出ると何人かの客が入っていて皆忙しく働いていた。

「羽山君おはよっ!遅刻なんて意外だね!」

「すみません。ちょっと寝てたら…」

「大丈夫?少し顔色悪いよ?」

「あんまり無理しないでね。」

「はい、ありがとうございます。でも大丈夫ですから。」

遅刻したことを責めもせず逆に労ってくれるバイト仲間に感謝しながら五月も仕事に取りかかった。

オーダーを取りに行ったり、出来上がった品を運んだりと目まぐるしく働いていた。

忙しさがピークに差し掛かった頃、新規のお客さんが入ってきた。

「いらっしゃいま、せ」

来店した人物を見て五月は固まった。

浩介と綺麗な女の人。

「お席へご案内いたします。こちらへどうぞー!」

スタッフがすぐに2人を店内へと案内した。

寄り添うように歩く二人は誰が見てもお似合いの恋人同士にしか見えない。

店の皆が2人を見て感嘆を漏らしていた。

五月は体が急に冷えて、手の先の感覚がなくなった。

いやに心臓の音が耳に響く。

「羽山君?大丈夫?顔真っ青だよ!」

「う、ん…」

「羽山!こっちこい!」

「あ、」

いつの間にキッチンから出てきたのか、昇司が五月の手を引っ張り控え室へ向かった。

「ほら、やっぱり体調悪かったんだろ。休んどけ。」

「でも…」

ソファに座らされた五月は立ち上がろうとしたが昇司に肩を押されてあっさりソファに戻った。

「いいから休んどけ。無理して何かあった方がダメだろ。時間あいたら食べやすいモン持ってきてやるから。」

「はい…すみません…」

今自分が店に出ても迷惑になるだけなのだ。

五月は情けなくなって俯いた。

「気にすんな。ほら、暖かくしておとなしくしてろ。」

大きな手で優しく頭をなでられ、五月は小さく頷いた。

1人になると思い出すのはさっきの場面。

食堂から見た腕を絡めた人でも、今日カフェテリアでしゃべっていた人でもなかった。

他の女の人といるところを自分の目で見て、ショックだった。

浩介は五月がここでバイトをしているのを知っているのに、女の人と2人で来た。

まるで見せつけるかのように。

一瞬目があった気がしたけれどそれもすぐに反らされて。

もう何がなんだかわからなかった。

浩介が何をしたいのか、自分が何をしたいのか。

抜け出せないラビリンスに入り込んでしまった気がして五月は深いため息をついた。


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あきゅろす。
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