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それからも結局浩介と会うことは出来なかったが、週末に会えないかとメールがきて五月は喜んだ。
久々に映画にでも行こうと誘われ五月は二つ返事で承諾した。
けれどあの気まずい別れ方をしてから1週間。
どんな顔をして会えばいいのか不安だったが浩介は特に気にした風でもなく笑顔で五月を迎えに来てくれた。
それにほっと安心して五月も笑顔を見せた。
午後からの映画を見て、ウィンドーショッピングをして疲れたらカフェに入り、またブラブラ歩く。
隣を歩く浩介を見上げて五月は久々のデートに照れ笑いをして。
「なに笑ってんだ?」
「ん?別になんでもないよ。」
手を繋ぐことはできないけれど、五月の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれたり、気づけば車道側に浩介がいたり、さりげない優しさに五月は顔を綻ばせた。
夜はオシャレな居酒屋でご飯を食べた。
ホンのすぐ前にある端正な顔が優しげに微笑んで、低い声で「五月」と呼ばれる度に胸を高鳴らせ、グラスを煽るときに薄く開いた唇から見える赤い舌を見て、五月は頬を赤く染めた。
お店の証明が暗くムードがあるせいか、それとも久々に2人でいるせいか五月はなぜか浩介との情事を思い出していた。
それが恥ずかしくて自分の考えを誤魔化すようにグラスを煽った。
店を出る頃には五月の足元は覚束ず浩介に支えられながら帰路に着いた。
「ごめんね、浩介…」
「いいから。ほら、水飲んで。」
「ん、ありがと……」
五月の家に着くと浩介は甲斐甲斐しく五月の世話をした。
靴を脱がせると抱き上げてソファまで運び、飲み物を持ってくる。
「も、大丈夫…。だいぶらくになった」
受け取ったグラスの水を五月はごくごくと飲んだ。
「そう。よかった。それにしても珍しいな。五月がそんなに飲むなんて。」
「あ…うん。なんか飲みたくて…」
本当はエッチなことを思い出していたのを誤魔化すためだったのだけど。
五月は目をさまよわせながらそう答えた。
「まぁ、たまになら良いんじゃない。五月大丈夫そうだから俺帰るよ。ちゃんと鍵かけろよ?」
「え…、う、うん。」
「じゃ、おやすみ。」
「おやすみなさい……」
てっきり、このままするのだと思っていたので五月はぼんやりと浩介の後ろ姿を見送った。
期待していた自分がなんだかとてもイヤらしく感じて、五月は固く目をつぶった。
「さっちゃんって、三村とラブラブなんだよね?」
授業が始まる直前に来た進は開口一番にそう言った。
「な、なんだよ…」
先週も全く同じ質問をされた記憶がある五月はその時と同じように慌てた。
「最近会った?」
「え、うん。この前の土曜に映画行ったけど。」
「んー。だよなぁ。ラブラブ、だ。」
うんうん、と頷く進にどうしたんだよ、と聞くと。
「いや、俺もラブラブする相手が欲しいなーと思って!!」
と、おちゃらけた答えが返ってきた。
なんとなく腑に落ちない答えだったがチャイムが鳴ったためその話はそこで終わった。
今日は食堂に行こう、と進に誘われ五月も食堂に来ていた。
安くて量が多い食堂の料理は学生には有り難いもので昼時になると多くの人が集まる。
なんとか席を見つけ五月はそのまま席に留まり、進は食券を買いに行った。
食堂の中は本当に人だらけですぐに進の姿は見えなくなってしまい、五月は窓の外に目を移した。
「あ…。」
そこには後期始まって初めて見る浩介の姿があった。
華やかなグループの中でも浩介は一際目立っていて、すれ違う女の子が見とれているのが分かった。
そんなに格好いい人と付き合ってるんだと思うと五月はなんだか恥ずかしくなった。
五月と居るときには見せない、少し冷たい表情すらも浩介を格好良く見せるだけだと思ったのは欲目からなのか。
その時、グループ内の女の子がこれ見よがしに浩介の腕に絡みついた。
その顔は優越感たっぷりで周りの女の子を牽制しているようだった。
それを浩介は振り払うこともせず受け入れていた。
さっきまでのくすぐったい気持ちは消えて、五月は胸が痛んだ。
浩介にとってそれは大したことじゃないかもしれないが、自分の恋人が知らない人と腕を組んでいるところなんて見たくない。
やめて、と叫びたいけれどそんなことが出来るはずもなくて。
視線を外すことも出来ず五月は浩介を見ていた。
「あれ?羽山?こんなとこで会うの初めてだな!」
声のしたほうを振り向けばそこにはバイト先の先輩、吉田昇司が立っていた。
「昇司さん…」
「ん?どうした、元気ないぞ?」
「いえ、別に…」
そう言いながらもまた目は窓の外に移った。
「あ、あれは三村か…」
「昇司さん知ってるんですか?」
「高校が一緒だったからな。なんだ、羽山はあの女が好きだったのか?」
「え?」
「三村が相手じゃしょうがないって。諦めな。それに羽山にあんな女は似合わない。」
「ち、違いますよ!」
「まぁ、そう言うことにしといてやるよ。」
ムキになって否定する五月を昇司はクスクス笑った。
「さっちゃんお待たせ!」
そこにちょうど進がトレーを持って戻ってきた。
「じゃなあ。またバイトで。」
そう言って五月の頭を優しく撫でると昇司は歩いて行った。
その後ろ姿にはい、と返事をしてまた窓の外を見ると。
浩介がこちらを見ていた。
目があった気がしたけれどすぐに顔を反らされ、こっちを見ていたかも分からなかった。
「さっちゃん、さっきの人だれ?」
「え、あぁ。バイト先の先輩。すごい良い人なんだよ。」
「ふーん。さっちゃんも罪な子だね…」
「え?」
「さ、ご飯食べよ!いただきまーす!!」
パン、と両手をあわせてから箸をとった進と同じく五月もご飯を食べ始めた。
さっき見た光景は気にしちゃいけない、そう言い聞かせながら咀嚼していった。
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