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3の倍数は倦怠期とはよく言ったものだ。付き合い始めた頃は倦怠期なんて、と思っていたけれど。
そこまで考えて羽山五月はため息をついた。
今まさに五月とその恋人、三村浩介は倦怠期を向かえていた。
いや、五月が浩介に嫌気がさした訳でも飽きた訳でもないので倦怠期ではないのかもしれない。
けれど。浩介の浮気に五月は正直疲れていた。
今日は浩介の家でのんびりしよう、と前から約束していたから五月は浩介のマンションに来たのだけれど。
呼び鈴を鳴らしても携帯を鳴らしても出ない浩介に嫌な予感がして五月はスペアキーで扉を開けた。
浩介のデカい靴の隣に明らかに女物のパンプス。
それを見ただけで五月は予想が付いたけれど、それでももしかしたらただの友達かもしれない。
そんな希望を抱いて静かに浩介の寝室を開けた。
「――っ!」
セミダブルのベッドに男女が横たわっている。
布団から覗く肩は素肌で、五月の儚い希望はあっさりと破られた。
見ていたくなくて五月は乱暴に寝室の扉を閉め、靴を引っかけると走ってマンションから飛び出した。
五月と浩介の出会いは大学のゼミだった。
同じ学部で学籍番号が近かったからと、20人前後のゼミで同じになった浩介は他の誰よりも大人っぽくて数ヶ月前まで高校生とは思えなかった。
少し長めの髪を明るい茶色に染めて、ジャケットにジーンズというラフな格好が嫌と言うほど似合っていて。
けれど笑った顔は思ったよりも子供っぽくて、気づけば週に一度のゼミを五月は心待ちにしていた。
夏休みに入る前、前期試験の打ち上げとしてゼミのメンバーで飲み会が開催されたとき。
五月と浩介は隣同士になった。
緊張してあまり飲めない酒をあおってフワフワと夢心地でいたら、隣の浩介からそっと耳打ちされて。
「2人で抜けないか?」
間近で見ても損なわれない綺麗な顔を見ながら五月は頷いた。
「よかった。じゃあ行こう。」
ニコッと微笑まれ手を繋がれて店の外へと出た。
繋がれたままの手を不思議な気持ちで見ながら五月は浩介の後を歩いた。
5分ほど歩いたところで人気のない路地裏に引っ張り込まれた。
「なぁ、羽山…」
「な、なに?」
浩介の両手が五月の顔の横に置かれ、ホンの数十センチ先にある目が熱を持っているのを感じて五月は僅かに狼狽えた。
「羽山って俺のこと好きなんだろ?」
「え…?」
「いつもゼミの時間俺のこと見てたよな。」
まさか、バレていたなんて。
五月は顔に熱が集まってくるのを感じた。
「なぁ、気づいてた?俺も羽山のこと見てたの。」
「えっ…?」
「俺も、羽山のこと好きみたい。羽山って綺麗だし淑やかっていうの?すげー俺好み。なぁ、俺のこと好きだろ?」
ほら、言えよ、と甘い声が五月の思考をショートさせ、気づけば五月は口を開いていた。
「好き…。三村が好き。」
「かわい…」
近づいてくる顔に五月は自然と目を瞑って押し当てられる唇を受け入れた。
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