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ばにらのくちびる


 それなら、と受け取ってから
「ありがとう」
 と微笑んだ沖田はそれをスーツのポケットにしまいこんだ。



 沖田がそれを思い出したのは、終業後、エレベーターの前で到着を待っている、その時だった。
 ポケットから取り出してキャップを開けると、ふわりと甘い香りが漂った。一瞬ためらうが、どうせもう帰るだけだからと荒れた唇にクリームを塗る。
 再びポケットにしまうのと同時に、エレベーターが到着してドアが開いた。
「……岩本くん」
「沖田課長」
 持ち帰ってまとめるらしい資料の入った紙袋と鞄を抱えた岩本は、沖田が乗り込むとドアを閉めた。
「…課長」
 狭くもないが広くもないエレベーターに岩本の囁く様な声が響く。隣りに並んだ沖田が、ふっと顔を上げて岩本を見た。
「───なんですかもう」
「は?」
 一階が近付いて、速度がわずかに落ちる。
「あまい匂いなんかさせて」
 苦しそうに呟いた岩本の唇が、ほんの一瞬、沖田のそれに重なった。
 エレベーターが一階に着く。
 開いたエレベーターからは、かすかに顔を赤らめた岩本が足早に降りた。
 それから、締まりかけたドアを押し止どめて、首まで真っ赤にさせた沖田がおぼつかない足取りで現れる。
 つやつやした唇を押さえて俯きながら出て行く沖田を、守衛は不思議な顔で見送った。






葉月さんリク
「課長がつけたバニラの香りのリップクリームに誘われる年下部下」


うん
な ま ぬ る い
感じを味わっていただければ(笑)
葉月さん
素敵なリクをありがとうございました!




20051111 鈴木さら





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あきゅろす。
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