[携帯モード] [URL送信]
素晴らしき哉、人生

 夏になったら、海へ行くんだ。
 真っ青な空、海。白い雲。
 そして、太陽!
 もちろん、隣りにはお前。

 セ・トレ・ボン! と両手を広げて、フランスが言うのでドイツは黙ったまま冷静な目でそれを眺めた。
 しばしの沈黙のあと、やっと春を迎えた庭が見える窓を背に、フランスが振り返る。
「あれ…だめ? Non?」
「Nein.」
 なんで! と、フランスは半ば叫ぶように言いながら、ドイツの隣りに腰を下ろした。ドイツはできるだけ的確な言葉を探そうと、難しい顔で黙り込む。
 二人の会話は、主に英語で交わされる。
 だが、二人ともごく簡単な英語が身についているだけで(公式の会議では通訳が付くので)、込み入った話はなかなか難しい。母国語の中からお互いわかる単語を拾い出し、そこにぎこちない英語を混ぜ込んでの会話になるのだ。
「つまり、だな、俺には予定がある」
 ドイツが口を開く。フランスはウィ、とうなずいた。
「……」
「……」
「……」
「……説明終わり?」
「これ以上ない理由だろう。予定がある。去年からの約束だ」
「誰と」
 尖った口調になるのが、自分でもわかった。口ごもるかと思いきや、ドイツは
「イタリアだが」
 あっさり答えた。
 イタリア。
 ロマーノの方では、決してないはずだ。
 ヴェネチアーノ。あの天然たらしめ。
 今度はフランスが難しい顔をする。そこにドイツは追い討ちをかけるように言った。
「イタリアはいいぞ。お前も知っているだろう」
「――ああ、ああ、知ってるよ。よぉく知ってる。お前が俺なんかよりイタリアを好きなのは、よぉっく知ってるさ」
「…何を怒っているんだ。お前も一緒に来ればいいだろう」
「別に怒って…パルドン?」
 聞き返したフランスに、ドイツは珍しく苦笑して
「一緒に来て、セ・トレ・ボンでもトレ・ヴィアンでもやっていればいいだろう」
 それを聞いてぽかん、と口を開けていたフランスが、急にドイツの肩を掴んで抱き寄せた。
 有無をいわさず抱き締めて、驚いているのもかわまずに両頬に派手にキスをする。
「な、なんだ急に!」
 かあっ、と目元を赤く染めたドイツに
「嬉しい時にはこうするもんなんだ!」
 フランスは笑いながらもう一度キスをした。




仏独



[前][次]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!