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きかせてよ、あいのことばを

「お、ぼちぼち飛行機の時間だから俺帰るな」
 三人が座っていたテーブルから英語を喋る男が去ると、途端に、残された二人は黙り込む事になった。
 フランス人がフランス語しか喋らないなどと言うのは、この国際化時代には既にジョークの域だ。(しかしフランス語が世界で一番美しい言語である事は疑いようがない)
 だが、かと言って何か国語も流暢に話せるわけではない。さっきまでは、イギリスが英語で仲介をしていたのだがそれも無くなってしまった。
 話題も、そうない。
 今年の農作物の出来の話も、ワインの話チーズの話もしてしまった。
 フランスは、参ったな、と色々考えてはみるが全く思い付かない。
 沈黙と静寂は、時間の流れをいやに遅く感じさせる。
 ドイツも同じなのか、どこかぎこちなく視線をさまよわせ、目の前の庭に顔を向けた。
 初冬の日差しが、落ち葉の積もった趣のある庭を暖かく照らしている。
 その、横顔。
 アイスブルーの瞳に、金色の睫毛が淡く影を落としていた。
「…お前の目はまるで、宝石みたいだな」
 ぽつりと、フランスが呟いたので、ドイツはそちらを見やる。
 フランス語で、しかも呟いただけだったので聞き取れなかったのだろう。固い英語で、何だ、と訊く。
「あ、いや……」
 なんでもない、とフランスも英語で答えると、ドイツはまた秋の終わりの庭に目を戻す。
 金髪。鼻筋。唇。顎から、喉のライン。
 指先が、その肌に触れて、二人は黙ったままびくりと身体を揺らした。
 急に頬に触れられたドイツが驚くのは当然だが、触れたフランスも、その体温に驚いたのだ。
 外見は、その性格も相俟ってかひやりと冷たい印象なのだが、熱があるのではないかと思うほど温かい。
「お前、熱でもあるんじゃないのか」
 思わずフランス語で言うと
「……なんだって?」
 ドイツは母国語で訝しげに聞き返す。
 まったく、噛み合わない。
 氷のような青い瞳。
 フランスは、その目元に消えかけている傷跡を見付けてそれをそっと撫でた。
「戦いに明け暮れて、血に塗れて、傷を負って――それなのにどうしてお前はこんなに、気高くて、うつくしいんだ」
 フランスが言ったその台詞は、ドイツの耳にはまるで何か得体の知れない呪文のように聞こえる。
「…なんだって? わからない。フランス、何を言っているんだ?」
 片言の、ぎこちない英語。
 フランスはそっと笑うと
「勘弁しろよ。英語なんかで上手く言えるわけないだろ」
 ドイツの、その目元の傷を優しく撫でた。





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