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GUARNIGIONE
「…お前、透視だけじゃなくて予言もできんの?」
「馬鹿言え」
 見たところ鞠山からの着信は四度目になっている。
「しつこい男は嫌われるって定説を知らんのか、鞠山は」
「自分がしつこいとも思ってないんだろ」
 吐き捨てる様な周藤の口振りに篠戸が違いない、と笑う。
「──でもお前ら、実際どういう関係なの?」
 日誌をめくりながら、篠戸が珍しく静かな声で言った。周藤は手を止めて、考える様に頬杖をつく。
「俺が特殊隊にスカウトされたのは四年前だけど、鞠山もお前も、もうその頃には特殊隊にいたよな」
「…俺と鞠山は、同期だよ。五年前、奈上事件の時に──」



 国会議事堂に爆弾を仕掛けた。
 ナガミと名乗る男からそんな内容の電話があったのは、日本全国が梅雨に濡れる季節の頃だった。
 見つかった爆弾はたったひとつだったが、複雑怪奇な配線に誰も手が出せずに時間だけが過ぎていった。
 特殊隊に出動要請がかかったのは、事件発生から丸一日後だった。
 到着したジープから降りてきた相手を見て、警官隊の統率をしていた正木は絶句した。
「守備隊特殊班の鞠山です」
 そう敬礼して名乗った男は凛々しい青年だったが、
「──…周藤です」
 鞠山の後ろで俯いたままぼそぼそと名乗ったもう一人は、まだ少年といっていい程に若い。正木はおもわず二人に向かってこう言った。
「隊員証の──提示を願いたい」
 確認する。間違い無く、特殊隊である。
「…わかった、こちらへ」
 二人を先導しようとした正木に、背後から冷たい声が飛んだ。
「疑ってかかった事への謝罪も無しですか。警察ってのは偉いものですね」
 振り向くと、湿度の高い冷たい視線。
「周藤…!」
 鞠山が慌てて睨み合う正木と周藤の間に割り込む。しかし、鞠山の体を隔ててさえ、周藤の視線は正木に挑戦的な光を投げ付ける。
「───疑って悪かった。申し訳無い」
 正木がはっきりした声で言うと、周藤は上げていた目をまた伏せた。
 爆発物処理班は三人がその場に入った時にも処理法が見付からずに、爆弾を前に防護だけを固めていた。
 そこへ、簡単なプロテクターだけを身に着けた周藤が無造作に近付いた。処理班がざわめく。
 周藤の、あまりにも無防備な近付き方に正木もひやりとして、隣りの鞠山に
「彼は実戦は?」
 とおもわず尋ねた。
 正木の問い掛けに鞠山は多少気まずそうな顔をして、口を開いた。
「実戦も何も、周藤は、…三日前に特殊班に入ったばかりで」
 かく言う鞠山も二か月前に特殊隊に入ったばかりだ。
 目を見開いて真っ青な顔をした正木の視線の先で、周藤が躊躇の一つも見せずに色とりどりのコードと爆薬に手を伸ばした。
 周囲の人間が背筋を冷たく固くさせる中で、細く白い指先が、宝物に触れる様にコードにを撫でる。
 ふ、と周藤が息を吐いた。
 コードの一本一本を愛しそうな顔付きで辿る。それから、それらを纏める爆薬を、猫の背でも撫でる様な仕草で触る。
 周藤は長い時間──とは言っても、せいぜい十分程度──そうしていたが、腰のポーチを探るとニッパーを取り出した。
 ゲームに熱中する子供の様な周藤を、固唾を飲んで見守っていた処理班に鞠山が
「下がって」
 と一言だけ声を掛ける。
 しかし、処理班が下がる前に、周藤はコードに刃を入れた。
 ぱちん、とコードが切れる音は酷く響いた。
 全員が凍り付き、鞠山が溜息を吐く。
 ぱちん、ぱちん、と三、四ヵ所を切断して、周藤は爆弾を持ち上げた。
「──終わり」
 白い無表情な顔が少しだけ上気している。周藤は僅かに乱れた前髪を神経質に梳いて、処理班の一人に爆弾を押しつけた。
「爆弾はこれ一つです」
 鞠山と正木の前に立った周藤が言い切った。正木は夢でも見ている様な顔で
「何故、──爆発しないんだ」
 と呟いた。鞠山はそれを聞いて、ほんの少し微笑む。
「特殊隊ですから」
 そうして周藤に目を向けた瞬間、鞠山の視界に鋭いナイフを構えた処理班の一人の姿がうつった。
「──周藤!」
 咄嗟に動いた鞠山が、周藤の腕を掴んでぐいと引いた。
 瞳に冷酷な狂気をたたえたその男は、真っ直ぐに、持ったナイフを鞠山の腹に沈ませる。ほんの一瞬の静寂の後、男は床に押し付けられていた。
 男は連行されて行く間、虚ろな目で周藤を見続けて小さく呟いていた。
「──どうしてだ、どうしてわかった、俺の作品は、いつだって完璧なんだ、どうして」
 男の名はナガミと言った。爆発物処理の担当をもう十年もやっているベテランだった。


「…それで?」
「それだけ」
 篠戸の問いに、周藤は素っ気なく答える。
「色気のカケラもねぇじゃん」
「そもそも色気のカケラもない関係なんだよ」


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