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GUARNIGIONE

「野生の勘てさ」
 篠戸が苦笑すると、周藤はわざとらしいほど冷たい顔をして口を閉ざした。
 その様子に篠戸と梶が顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。そこへ
「お疲れ様です」
 全身黒服の背の高い男と、
「お疲れ様」
 こちらも上下黒のパンツスーツをぴしりと着た女が入って来た。
 二人は梶の前に並ぶと、綺麗に揃った敬礼をする。
「特殊班、仁科、鞠山、只今戻りました」
 梶もそれに敬礼を返して
「御苦労」
 と頷いた。
「仁科〜 お土産は?ササカマ〜」
 篠戸が手を上げて言うと、男の方が顔をしかめた。
「俺も仁科も仕事で行ってたんだぞ。土産なんかあるか」
「元々マリィにゃ期待してねーよ」
「篠戸、ササカマボコは明日届くよ。飛行機乗る前に少し時間あったから宅配にしたんだ」
 女──仁科がハスキーな声で笑いながら言った。
 やった、と歓声を上げる篠戸に、周藤と鞠山が哀れむ様な視線を投げ掛ける。ふと目が合うと、周藤は肩をすくめてみせた。
「関西の方はどうだった?」
 周藤の横に腰掛けて、鞠山が尋ねた。先週三日程、周藤と篠戸は関西方面へ出向していたのだった。
「偉そうなオヤジで」
「キレかけたよな、周藤。セクハラされるし」
 口をはさんだ篠戸を黙ってろ、と周藤が睨む。
「セクハラ?」
 鞠山が眉を顰めた。頷いて、篠戸が続ける。
「危なくベッドに」
「篠戸!」
「詳しくはロッカールームのゴミ箱の報告書にて」
「あら、素敵なゴシップじゃない。民間の雑誌に売ってやればいいのに」
 ベージュの薄手のコートを羽織りながら、仁科は面白そう、と笑う。
「素敵って、仁科さん…」
「まだ回収されてないんじゃない?」
「シュレッダーかけましたよ」
 苦々しい表情で周藤が言う。鞠山が眉を顰めたまま梶を見上げた。
「良くないんじゃないですか、梶さん。周藤は力もある方じゃ無いし。配置換えも考えた方が」
「やめてもらえますか、そういう、女の子みたいな扱いは」
 むっとした顔で、梶より先に周藤が口を開いた。
 梶が困った様に、まあまあ二人共、と言ったが、鞠山は真っ直ぐに周藤を見つめて言う。
「でも、これが初めてじゃないだろう、周藤」
「そうですけど。別に危険な目にはあってない。…非常に不愉快ですけどね」
「マリィ、過保護だよなあ。嫌われちゃうぜ?可愛い周藤クンに」
 篠戸が薄笑いを浮かべる。
 篠戸の台詞も気に食わなかったらしい周藤は、むっとした顔のままロッカーから取り出したジャケットに袖を通す。細い手首にはいささかごつい腕時計を睨む様に見た。
「三シフトは交替の時間だ、篠戸」
「お、もうそんな時間?」
 慌てて立ち上がる篠戸を置いて、周藤は携帯用のハンディパソコンを腰のポーチに入れて休憩室を出る。
「──周藤!」
 引き止める様な鞠山の声が廊下に響く。周藤は冷たい目のまま振り向いた。
「その──」
「あんたのそういう所が俺は嫌いだ」
 絶句した鞠山を篠戸が後ろから押し退ける。
「嫌いだってよ、マリィ」
 意地の悪い笑みを浮かべて篠戸が囁いた。
「恋人づらは止めた方がいいんじゃねえの」
「篠戸!置いてくぞ!」
「待てって。今行く」
 じゃあな、と周藤を追いかける篠戸の背中を、鞠山はしばらく睨み付けていた。



 スライドが切り替わる音に紛れて、欠伸をする。隣に座った守備隊最高官にじろりと睨まれたのも気にせず、眠たそうに目を擦る。
 色素の抜けた薄茶の髪はゆるいパーマがあてられていて、日本人離れした容姿を際立たせている。
「──次に、特殊隊です」
 スライド係が言うと、その派手な外見の男は唐突に身を乗り出した。
「隊長の梶、──」
 スクリーンに写し出された書類を食い入る様に見つめる。
「爆発物処理の周藤──」
「紫暁寺君」
 最高官の呼び掛けに、男は煩わしげにそちらを向いた。
「我儘はこれきりにしていただきたいね」
「全員分のデータを見られりゃ、もう何も要求しませんよ。芹澤さん」
 薄い唇が歪む様に笑って言う。
「…なら良いがね」
 スライドが切り替わる。
 男は真っ白になったスクリーンの前に、もう用は無いとばかりに立ち上がった。



 守備隊では二十四時間のシフトを三隊で回す。それは特殊隊であろうと変わらない。
 全隊員が所持する携帯用パソコンは指紋と音声認証式で、持ち主以外は電源が入らない様になっている。更に、小型インカムを付ければ有線にも無線にも切り替わるという、一般には出回っていない特別な仕様になっている。

「周藤、鳴ってる」
 暇そうに椅子にかけて日誌を読んでいた篠戸が、ノートに向かっている周藤を呼んだ。
「知ってる」
 眼鏡のフレームを押し上げて、周藤が答えた。
「出ねぇの?」
「鞠山だろ」
 篠戸が表示画面を覗き込む。



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あきゅろす。
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