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GUARNIGIONE
「──動くな!手を上げて、ゆっくりこっちを向け……そうだ。…」
荒々しく打っていた鼓動が、警官殺しのその男が振り向いた瞬間、ぴたりと動きを止めた気がした。
 切れ長のきつい目が嘲笑う様に三好を見ている。
「……八頭…!」
 三好は半ば呆然と叫ぶ。八頭は昏い瞳でうっそりと笑った。



…続く.






「周藤…」
「あぁ?」
「周藤〜! 続きは?続き!」
「だから、後書きに書いてあるだろ。それは今月出た最新刊。次巻は約半年後」
「半年!半年も待てって?!引きすぎ!無理!」
「無理だろうがなんだろうが、次巻は半年後だ」
「遅筆!来月出せよ!」
「うるせえ。俺を殺す気か」
 持っていたボールペンをぱしん、と机に叩き付ける様に置いて、周藤は目の前の騒がしい男を睨み付けた。
 う、と男──篠戸が黙る。
「ただでさえこっちとの兼業できつきつなんだ。わかるか。俺は今非常に気が立っている」
 はい、スミマセン、と篠戸が小さく答える。周藤はよろしい、と頷くとまたボールペンを手にした。
 銀縁の細いフレームの眼鏡を、繊細そうな指先が押し上げる。
 篠戸が手の中の本をまた開く。
「な、このあとどうなんの」
 ぱらぱらとページを捲りながら篠戸が訊く。周藤は薄い唇から深い溜息を零して、眉間に皺を寄せた。
「あのなあ」
 周藤の声に被さる様に、派手な音を立てて勢い良くドアが開いた。
「周藤!」
 飛び込んできた中年の男は、篠戸が持っているのと同じ本を手にしている。
「…梶さん」
 周藤はいよいよ諦めた顔でペンを置いた。
「周藤、このあとどうなるんだ」
 渋い声が篠戸と全く同じ事を訊いて、周藤は今度こそ脱力した様に机に突っ伏した。


20XX.日本───


 二十一世紀初頭に破綻した世界経済は、各国を混乱に陥れた。
 中でも先進各国への打撃は大きく、日本も例外ではなかった。
 じわじわと上昇していた失業率は一気に跳ね上がり、貧富の格差はいよいよ広がった。
 貧しい者が増える一方で、一握りの富める者は自らの財の確保に心血を注ぐ様になっていた。
 全国で犯罪発生率が軒並み上昇した頃、政府による、とある機関が発足した。

 政治を続けるには金が要る。資金の供給には各富豪の協力が欠かせなかった。
 その為、各党は独自の警備隊を発足。ほぼ二十四時間体制で「資金提供者」の警護を始めた。

 しかし、彼らが何を守るか、何の為に守るか、ということを口にするのはタブーとなった。
 一握りの国民を除いては、批判的な意見に世論は沸いていたからだった。

 その為、集められ、栄えある「国家財産警備隊」の一員となった者達は単純に、こうよばれる事になった。

『守備隊』と。




GUARNIGIONE






 体力、頭脳、技術等様々な面で優れた者が集められた守備隊の中でも、一際異例に満ちた部隊があった。
 特殊班と呼ばれる彼等は、ありとあらゆる凶悪犯罪の場に於いて、現在までただの一度も任務を全うしなかった事がない。

 警察や消防等の特殊部隊をはるかに超える権限と実力を持つ。
 全守備隊員の羨望と畏敬の的。
 それが───



「梶さん、篠戸と同レベルの質問ですよ」
 四十半ばとは思えない、弛みのないがっしりした体の男が、線の細い若い男にそう言われて傷付いた顔をした。
「そうなのか?」
「そうですよ」
「やっぱり気になるよねえ、梶さん。半年も待ってられないって」
 篠戸が言うと、梶はうんうん、と頷く。
 周藤は広げていたノートを閉じて、ロッカーに放り込む。
「そんなに続きが気になるなら、三か月ほど長休貰いますけど」
 梶に向かって冷ややかな声で周藤が言うと、
「勘弁してくれよ、周藤。お前に抜けられたら仕事にならない」
 情けない答えが返ってくる。
「そうだよ、周藤。誰が爆弾の線切るんだよ」
「お前が野生の勘で切ったらいいだろ」



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