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きみの手が、僕の運命をにぎっているのです。(「へりくつ」続編


 ホームセンターの袋から少し得意げに取り出したのは、真っ白い紙粘土。
「……どしたの」
 呆気にとられて俺が訊くと、田渕は冷静な俺の問い掛けにちょっと照れたような無表情で
「懐かしくなって買った」
 と答えた。
「…図工の時間?」
「うん」
 この『彼氏にしたい男ナンバーワン』みたいな外見で、よく照れもせず紙粘土とか買えるなあ、田渕。男前。
「最近の紙粘土って軽いのな。ほら」
 渡されて俺は思わず、おお、と声を上げた。
「軽い!」
「な。俺らの頃ってもっと」
「もっと重かったよ!」
「もっと軽いのもあるんだって店員が言ってた」
「へえぇ」
 技術の進歩ってのは凄いなあ、としみじみ感心してしまう。
「で、なに作るの、田渕」
 軽い質問だったのに、田渕は黙ってしまった。
 怒ったみたいに眉間に力が入っている。
 何も考えていなかったらしい。
 非常に気まずい。
「……あ、なあ、えと、絵の具混ぜたらカラーにできるんだ?」
 空を睨んで何を作るか真剣に考えていたらしい田渕が、やっと俺を見た。
「…みたいだな」
「な、これ、俺にも分けてよ。食堂でなんか作ろう」
 内心の焦りを必死で隠して俺が笑うと、田渕はほっとしたように頷いた。

 絵の具は美術同好会からいらないやつをわけてもらった。
 俺はとりあえず、黄色にした紙粘土をこねている。隣りに座った田渕はまだ思案顔で、白いままの粘土を前に固まっている。
「お、なにやってんの」
 通りがかった友達の一団がテーブルを囲む。
「紙粘土」
 懐かしい、と全員から声が上がった。
 綺麗な黄色になった粘土を小さめに丸めて、テーブルに置く。それにもっと小さなくちばしをつけて、
「器用だなぁ」
「目は?」
「ペンで後付け」
「なるほど」
 田渕はまだ固まっているので、俺は
「田渕」
 顔を上げた彼に
「こいつの親を作ってよ」
 そう提案する。
 田渕が白いかたまりをなんとかうまく丸めて、俺はそれにトサカとくちばしをつけてやる。
 それから黒目を作って、田渕に渡す。ぎこちない手つきで目を貼り付けた田渕に、俺は笑いかける。
「上手いじゃん」
「……まあまあ、だな」
 まるではにかむ子供のように笑う。
 胸の辺りを鷲掴みにされたような気がして、俺はテーブルに突っ伏した。
「…なにしてんだよ」
「なんでもないよ」
 なんでもないよ。
 なにも変わらない。

 好きだよ。






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あきゅろす。
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