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「紫」


 感じる?
 感じて。
 そこで。


  VioLa


 応接用の長椅子に見慣れた顔が眠るのを見付けて、溜息を吐く。
「おい、伊勢」
 言いながら長椅子を乱暴に蹴ると、う…ん、と呻いて薄目を開けた。
「……おう、松平…」
「いい加減ヒゲ剃れよ」
「んー」
 答えながら目を閉じようとするのを、また蹴り上げる。
「……優しくしろよ」
「起きてまで寝言はやめろ」
 薄手の夏服にそろそろと伸ばされた手をぴしゃりと叩く。何が楽しいのか、伊勢は不精ヒゲが浮かぶ顎を指で撫でながらにやにや笑っている。
「にやにやするな、気色悪い」
「噛み付くなって。今何時だ?」
「七時半」
「起こすなよ。八時半までは寝るからな」
「ヒゲを剃れって言ってんだろ。朝飯あるぞ」
「それを先に言えよ」
 朝飯と聞いた途端、伊勢はむくりと起き上がる。
 コンビニおにぎりとインスタント味噌汁を十分かそこらで平らげて、伊勢は満足そうな息を吐いた。
「ごっそーさん」
「366円」
「細けぇな。ツケといてくれよ」
 パソコンに向かい合う横顔に視線を感じる。
「…なあ、伊勢」
 わざわざ眼鏡を掛け直して、望むように流し目をくれてやる。
「ん?」
 くちびる。
 頬のライン。
 襟首。
 薄い肩。
 服越しの線。
 なぞるように視線が動く。
 その、欲情と観察が入り交じる視線に密かに満足する。
「まだ俺が好きか」

くちづけのような
炎に似た
視線。

「ああ」
 朝の駆け引きのいつもの答えに、満足する。
「しかし、お前はどうしようもないな」
 伊勢が立ち上がって、大きく伸びをしながら言う。
 怪訝な顔をしていたのだろう、こちらを見るとにやりと笑った。

「毎日毎日俺の愛を確認しないと気が済まないんだろ?」

言っていればいい。





・・-・・-・・-

新尾様へ。

「紫」(viola)をテーマに
でした。

視姦て紫かなぁ
と思って(笑)



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