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淡い明日


 一目でわかった。
 終わりがくるのを知っていた。
 けれど、それでもいいと、思ってた。


 分厚い遮光カーテンを開けると、薄暗い青の海が広がった。やっぱり夏に来るんだった、と少し後悔しながら、夏海は窓ガラスに額を押し当てる。
 空はよく晴れてクリスタルブルーがどこまでも続いているが、美しい煉瓦の町並みは真っ白に染められている。これでも今年は暖冬で積雪は少ない方だとフロントで聞いた。内陸はもっと積もると言うが、想像も出来ない。
 通りを歩く人々をこっそり眺める。比較的薄着なのが地元の人間で、もこもこと膨らんでいるのが───自分を含めた、観光客達だ。
 膨らんだ女性の一団が見えて、ペンギンみたいだな、と夏海は少し笑った。
「何か見えるかい」
 ベッドの方から急に声を掛けられて、夏海はびくりと振り返る。
「びっくりした。いつから起きてたんです?」
「たった今だよ。…何か面白いものでも見える?」
「ペンギンみたいだなと思って。ほら、あそこ」
 並んで、肩を寄せ合う。
 南天の低い位置にかかった太陽の光が乱反射して、二人は揃って目を細めた。
「……トドの群れじゃなく?」
「ひどい事言うなあ、泉未さん…」
 夏海は、一回り年上の上司の肩にもたれかかってくすくす笑う。泉未は夏海の腰を抱き寄せて、その頬に唇で触れた。
 今日はどうしようか…と、ごく低い声で泉未が囁く。夏海は蒼い海を遠い目で見つめて口を閉ざした。
「夏海…」
「やっぱり、夏に来るんだった」
 ニューヨークなんて遠すぎる。
 掠れた小さな声で呟いた夏海を、泉未は黙ってただ抱き寄せた。
「───連れてって下さい」
 混乱しているのを、夏海は自分でもわかっていた。
「連れて行って、下さい」
 駄目だと思いながら、惹かれ合うのを止められなかった。
 隠れるようにして抱き合った。
 それももう終わる。
「───すまない」
 体に響いた声に目をつぶると、ぽろりと頬に涙が零れた。
 広がる海では波がただ暗く、蒼く繰り返す。寄せては返す。
 出会いも別れも、それに似ている。
 淡い空の色が、遠く、海と混じる。
 真昼の光に、二人はただ目を閉じた。





お題提供:
ホシトミズナミ様


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あきゅろす。
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