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残る甘さ


 疲れていたんだと思う。
 飲み過ぎかな、と思った記憶はある。
 けれど、けれど。
「……これはないだろ…」
 隣では、全裸の上司が静かに寝息をたてていた。


 齢三十にして企画部課長。焦茶色の瞳に、いつも涼しげな風貌。
 蓼科課長は他の追随を許さない、トップエリートだ。
 整った顔してるよな、とは思っていたんだ。全体的に線が細くて、綺麗だな、とは。
「………いや、いや、…ないだろ、それにしたって」
 頭を抱えた。不意に、課長が小さく寝言を呻く。
 ばくばくする心臓をなだめながら、そうっと布団を持ち上げてみる。
 すっかり高くなった太陽の光の中で、きめの細かい白肌に、点々と朱が散っているのが見えて、慌てて布団を戻した。
 ありえねえ、と、気を抜けば悲鳴を上げてしまいそうな口を押さえる。
「……なに面白い顔してるんだ、久代くん」
 静かな声に、本気で全身が跳ね上がった。それから、血の気が引く音。
 うつぶせに寝返りをうって、課長はいやに可愛らしい仕草で枕を抱えた。首筋にうっすら残った跡が生々しくて、目を逸らす。
「…久代くん」
 深い色の目が見上げているのはわかったが、とてもじゃないが顔も見られない。
「久代くん」
「は、い」
「ゆうべは悪かったね」
「……は?」
 聞き返すと、いたずらっぽく笑う。年上だとは思えないくらい、可愛らしい。
「ほとんど酔い潰れてたきみに、乗ったのは、僕だよ」
 婉然と微笑んで、くらくらするような台詞を吐いた。
 伸ばした手が、手首の辺りの薄い皮膚をそっと撫でる。それから彼は、目をゆっくり細めて、
「───秘密に、してくれるね?」
 悪魔が誘惑を囁くように言った。
 がん、と殴られたような目眩を感じながらうなずくと、にっこり笑って、
「約束だ」
 囁いて、唇を寄せた。





お題提供:ホシトミズナミ様

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