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ル・スールの王



 かつて栄華を誇ったル・スール王国に、今はただ、王が一人と騎士が二人。
 三人が暮らすだけの慎ましい屋敷に、馬が三頭と羊が四頭。それから片耳だけが黒い白猫が一匹。
 それはおだやかな暮らしだった。


 大きな宮殿にいた頃は生白い顔色で医師団をやきもきさせた若い王は、今では溌剌とした小麦の肌で、よく笑う。
 屋敷の前にある畑で、王はその日鍬を振るっていた。
 秋晴れの下、土を掘り返すと実った芋がごろごろとあらわれて、王はそれを慈しむように拾い上げる。
「陛下」
 隣りの畝で同じように芋を掘っていた、騎士の一人───セルカが良く通る声で王を呼んだ。
「どうした、セルカ」
「ジャグが戻ったようです」
 指した方向に、黒馬が引く荷馬車が見えた。
「そうか」
 では迎えに行こう、と芋の詰まった麻袋を引きずると、セルカがそれをひょいと肩に担ぎ上げる。王は苦笑いを浮かべて
「すまぬな」
 と、自分より幾分若い騎士を見上げた。
 ジャグは何故だか慌てた様子だった。畑のすぐそばで馬車を止めると、のんびり歩いていた王とセルカの方へ早足で近付く。
「どうした、ジャグ」
 王が訊いた瞬間、ジャグは土が付くのも構わずにその場にひざまずいた。
「ジャグ?」
 驚く王に、騎士は恭しく、両手で金の指輪を差し出した。
「───これは…」
 金の指輪は風を斬る燕の飛ぶ姿をモチーフにしている。それはル・スールの正当継承者である事を示す物だった。
「ジャグ、これは」
「どういう事だ。先の戦いで、これはダグナルの手に落ちたのではなかったか」
 王とセルカが交互に言った。ジャグは薄茶の瞳を真っ直ぐに上げると、
「陛下、ダグナルは大国ユナンの侵略に、落ちたのです」
 言った。
「───ダグナルが」
「はい。ダグナルの王は城を脱し、今では行方知れず。
…この指輪は、混乱に紛れて城から持ち出され、骨董屋の軒先に並べられておりました」
 王は呆然と指輪を見つめる。ジャグはその手をとった。
「陛下。
陛下、どうぞ指輪を」
 セルカが指輪を取り上げ、ジャグが支える王の指にそれを通した。
 土に汚れた指に、金の指輪が光る。王はまだ呆然と、指輪と二人の騎士を見ていた。

 栄華を誇ったル・スール王国に、今はただ、王が一人と騎士が二人───







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