セルロイド・ブルー
セルロイド・ブルー
セルロイド・ブルー
俺の青い夢。
「マック行くー?」
「金ねぇよ」
「ヨシはどうする?」
「あー…」
財布には五百円玉が一枚きり。これで明後日まで昼飯をどうにかしないとならない。
「…パス」
「えー」
「たまには明るいうちに帰るべ。親孝行親孝行」
「あ、俺んち来る?ちょうどメンチカツ揚がる時間だ」
「橋本ー!」
「救世主!」
「おうおう、あがめたてまつれー」
「橋本サマー!」
「うむ、くるしゅうない」
廊下に広がって騒ぎながら歩いて行く。大袈裟な身振りで手を広げた上谷が、向かいから歩いて来た一人にぶつかった。
「って、ごめ…」
謝ろうとした上谷が、はっとして口をつぐんだ。
真川だ。
髪は焦茶に金の筋が混じる。目はどうしてか薄い茶緑で、顔立ちはおっそろしく整っている。
無口で、一年の時に三年相手の喧嘩に勝ってから、誰も真川には近付かない。
真川は上谷の顔を数秒見詰め、まるで興味なさそうに目を逸らす。上谷は慌てて壁に寄った。
す、と通り過ぎた制服から、ほんの微かに甘い匂い。
「───…っくりした」
「つか、あれ女物の香水じゃね?」
「マーキング?」
「移り香?」
「やーらしー」
笑い合いながら、俺達は学校を出た。
ドアを開けると、虎模様の猫が俺を迎えてくれる。ふい、と目をそらす仕草が飼い主にそっくりだ。
「───真川」
部屋の主はソファで眠っていた。俺は近付いて、ゆっくり伸し掛かる。
「ま、が、わ」
「……聞こえてる」
「おはよ」
それでもなかなか目を開かないから、俺は首の辺りに頬を擦り寄せた。
「真ー川ー」
「わかったから…」
「今日無視してごめんな」
「んん。いいって…やめろってば、くすぐったい」
女物の香水は、俺が買って真川にプレゼントした。この外見で、喧嘩が強くて女物の香水の匂いをまとわりつかせてるなんて、それっぽくて牽制になるかも、なんて。
「吉実、こら、聞いてんのか。くすぐったい」
「ちょっとだけ」
ついでに猫まで寄ってくるから、真川は楽しそうに笑う。
セルロイド・ブルー
セルロイド・ブルー
俺達の秘密。
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