推定無罪
夏の光が揺れている。
長い海外出張を終えて帰ってきたその日、妻が若い男と浮気をしているのを知った。
妻はその男に夢中になるあまり、私が日本へ戻って来る日の事も、あまつさえ私が出張に行っている事も忘れていたらしい。
玄関先ではちあわせた私と男は、互いに事態が把握できずに暫く見つめあった。
二十五、六歳といったところだろうか。薄く茶色掛かった髪に、涼しげな目許。背が高くて、何とかと言う俳優に似ていた。
「───何だ、この、」
妻は驚いた顔をして、それから開き直ったように
「あら、お帰りなさい」
と言った。私は言葉を続けられずに、ただ目の前の男を見つめる。男は、不意に人懐っこい笑顔を浮かべると、
「お帰りなさい」
と言った。
色々なものが渦巻いた気がしたが、開けた口はぱくぱくと空気を咀嚼するだけだった。
結論から言うと、私は四十を前にして妻とは別れた。
そして今は、あの時の若い男と生活している。
「克志さん、じゃ、行って来ます」
「ああ、気をつけてな」
軽いキスを、私は頬に受けた。
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