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オン・ア・ストーミィ・ナイト




 痛いくらいの雨の中に、井上は飛び出して行った。馬鹿としか言い様がない。
 真っ黒になった空はまるでこの世の終わりのようだ。水溜まりと言うより、池になった道に、大粒の雨が落ちては跳ね上がる。
 十数分後、戻ってきた井上は玄関で
「賀沢ー、タオルとってくれ」
 ぴいぴい鳴いてる声に負けないような声で言った。
 俺はやれやれと本を閉じて腰を上げる。少し古ぼけたタオルを水浸しになった井上に投げ付けると、自分より先に腕に抱えた子猫を拭いた。
 馬鹿じゃねえの、ほんと。
 白黒二色の子猫はタオルの中でもごもご動いてはか細い声を上げている。
「あと頼む」
 井上は俺にタオルと猫を押し付けて、着ていたシャツを一気に脱いだ。
「こんなとこで脱ぐなよ!」
「は? ここで脱がないと部屋が水浸しになるだろ」
 言いながら洗濯機に突っ込む。週三回だか四回のジム通いの効果が出ている体に、俺は慌てて新しいタオルを投げ付ける。
 井上はにやりと笑う。
「今更照れるなよ」
「馬鹿か。変態。死ね」
 空の洗濯籠の中にタオルごと入れた猫は、落ち着いたのか鳴くのをやめた。
 よく見ると、鼻はピンクなのに、口の上が黒い。
「井上、こいつヒゲあるぞ」
「は? そりゃあるだろう」
「チョビヒゲと名付けよう」
「…そういうことか。勝手に決めるなって」
 結局ヒゲと名付けた猫は、タオルの中で眠ってしまった。
「……お前も馬鹿だよな。たかが猫一匹の為にさ」
 雨はいよいよ激しくなって、横殴りに窓を叩いている。
 この世の終わり。
 山の上から、神様は汚れた下界を嘆き悲しんだ。
「やまなかったらどうする?」
「そんな映画か何かなかったか。やまなかったら死ぬだろうなあ」
 でも、まあ、と井上は煙草に火を点けた。
「お前と猫と一緒だから、それも悪かないよ」

 あらしのよるに。









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