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海の上の島


 甘くなくていい。
 長くなくていい。
 くちづけを。
 ただ最後に。


 彼がとうとう戦いに行くと言うので、俺達はただ彼を見送る事しか出来ない。
 一日に一人。
 それが定められた法。
 死神のような真っ黒のスーツに、漫画みたいなサングラス。それが、戦いからの使者。
 百人からはじまって、一日に一人ずつ。
 何人死んでも、新しく戦いにゆくのはただ一人だけ。
 それが、掟。
 それはある種のカードゲームに似ていて、ただゲームと違うのは、手持ちの札が先に無くなった方の負け。
 そう。
 最後のたった一人まで。
 戦いは、遠い海の上の島で行われていて、そこは暑くもなく寒くもない。
 何年も、何十年も。
 何百年もそれは続く。
 最後のたった一人が、息を止めるその瞬間まで。

「出発は、いつ?」
「一週間後」
「……マチル・ママには?」
「言ったよ。泣いてた」
「……そう」

 それを止める術はない。
 それは何十年も。
 何百年も。
 永遠に続く。

「俺が行くまで生きてろよ」
 笑いながら。
「生きててやるからキスしろよ」
 笑いながら。

 例えば、百人いて、いっぺんに百人が死んだら?
 彼は死神三人組を前に、それだけを尋ねたと言った。
 死神達は少し、揃った笑みを浮かべて
「一日に一人。例外は、無い」
 簡潔な答え。
 その国の民が死に絶えるまで、誰かが札をきり続ける。
 簡潔な答え。

「生きてろよ」
 俺は、死神の来訪を待ちながら、毎日空に───海の上の島の空に言う。
「キスしてやるから」
 毎日。毎日。
 なあ、なのに。


 七年が経って、俺はまた彼にキスをする。
 彼の名前の上にそっと唇を落とす。
 細かい砂が唇に触れる。
 彼の名前が彫られた、白い小さな石に。

 最後に、

 さいごに くちづけを。








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