ステラ・ムジカ(中途半端
かみさまはいる。
天才もいる。
偶然と奇跡もある。
敗者もいる。
けれど勝者はいない。
誰も一番にはなれない。
だってそこには、てっぺんなんて無いんだ。
かみさまだって、一番にはなれない。
ステラ・ムジカ
「俺最近クラシックにハマっててさぁ」
教養とは無縁そうな奴がそう言うのが、俺は本当に嫌いなのだ。
「モーツァルトとかいいよな。ほんと癒されるよ」
情緒不安定の変態作曲家に癒されるのか。そうか。
「あとほら、木星。ジュピターっつって、歌手が歌ってたろ。あれ、元はクラシック曲なんだぜ」
口を噤め。
いっそ黙らせてやろうか。
こっちは気分良く飲みたいだけなんだ。
「お兄さん、詳しいんですね」
背を向けていたその席に、斜め後ろから声がかかった。酔客の熱気渦巻く居酒屋で、ぴんと通る、強く上品な声だ。
「エリックとかいいですよね」
その丁寧さが慇懃無礼にも聞こえるのは気のせいだろうか。
「あ、ああ、うん、エリックな」
いいよな、と、引きつるような声が答えるのに俺は一人で嘲笑を浮かべる。
エリック・サティは俺も好きだ。
「ドビュッシーはどうです? サンサーンスは?」
酔っ払いは黙り込む。俺は声の主が気になってそっと振り向いた。
目が合う。
声の主は片目をゆっくり細めて笑って見せる。
それが、俺と藍沢の出会いだった。
藍沢 武人。音大の三年。
「…二十一には見えないな」
免許証を見ながらの俺の声に
「一浪してるから二十二です」
苦笑する顔がいやに大人びている。
さぞかしモテるだろう。
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