[携帯モード] [URL送信]
恋の行方

「いいな、うらやましい。俺なんかやっと最近玉子炒飯を上手に作れるようになったばっかりで」
 長谷は滝川の多少早口な言葉を必死に聞き取り、ふわりと微笑む。
 その、まるで可憐な花のような微笑。滝川はどきりとした。
 ポットを傾けて紅茶を注ぐ指は、女性のように華奢で、白い。
 どこに目を向けても長谷の儚く淡い美しさが目に入って、落ち着かなげに足を組み替える。
「…滝川さん、は」
 名前を呼ばれたのが、ちょうどその薄い唇をぼうっと見ていた時で、滝川はぎくりと肩を揺らした。挙動不審気味の滝川を気にする様子もなく、長谷はどこかあどけない視線を向ける。
「お仕事は…」
「あ、ああ」
 言われて、常に携帯している名刺入れを出した。
「オーランド・ケント損保の滝川と申します」
 いつもそうしているように───いや、いつもより優しい声で言うと、長谷は慌ててフォークを皿に置いて両手を出し、それを受け取る。
 書式はごく普通の名刺だが、少し厚手の和紙を使っている。それが記憶に残りやすいのか、大抵の相手は二度目に会った時でもちゃんと覚えていてくれるのだ。
 長谷も手触りでそれに気付いたのか、
「和紙…ですか?」
 と訊きながら微笑む。
「珍しいでしょう。重役になると、それに金箔を入れられるんですよ」
 それはいつもの冗談だった。そう言うと大体の相手は「えっ、本当に?」などと聞き返してくるので、こちらも笑いながら「まあ、それは冗談ですが…」などと返す。
 けれど、長谷はほんのり笑った。
「そうなんですか。それも、きれいでしょうね」
「あ…、…ええ。はい」
 呆気に取られ、冗談だ、とも言えずに滝川はうなずく。





[前]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!