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恋の行方

 ケーキ屋で男二人は目立ったが、店員や他の客がちらちらと視線を投げてくるのは、それだけが原因ではないようだった。
 店員に案内されてそっと椅子に腰掛けた長谷は、まるで陽の光に溶けて消えてしまうような雰囲気で、誰もが目を奪われる。
 一方の滝川は、穏やかで且つ男らしい、堂々とした空気を感じさせる。
 対照的な組み合わせが、その場の人間の目を引いた。
「甘い物、お好きでした?」
 メニューを開きながら今更ながら滝川が訊くと、長谷は何故か躊躇うようにして、ゆっくり頷いた。
「良かった。俺はブレンドと、ベイクドチーズケーキで」
 あまりにも楚々として引っ込み思案なタイプに見えたので、同じ物を注文するかなと滝川は予想していたが、長谷は
「アップルパイと…、ダージリンを、お願いします」
 以外にもはっきりと、そう店員に言った。
 淡いレースのカーテン越しに午後の日差しがやわらかく揺れる。
 こうして陽の光の中で見ると、長谷はいっそう華奢で、嘘のように綺麗だった。
 真っ白いティーカップを持つ、細い指先。絹のような光沢を乗せた栗茶色の髪。滝川の視線に気付いて、困ったように微笑む唇───
「あ、ああ、そうだ。俺、滝川と言います。自己紹介もまだでしたね」
 見とれていたのに気が付いて、滝川は慌ててそう言った。
「あ……長谷 巽です」
 長谷がゆるやかに会釈すると、その白い頬にさらりと髪が揺れる。
「失礼ですけど、お仕事は何をなさってるんですか?」
 滝川は、チーズケーキのがっしりした外側を口に運んだ。紅茶を一口飲んだ長谷が、宝石に似た光沢を持つパイ生地にざくりとフォークを入れる。
「パティシエ、です」
「パティシエ…って、お菓子を作る?」
「そうです」
「へええ…手に職ってやつですね。いいなあ。じゃあ、料理とかも得意?」
「ま、まあ、…はい」





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