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ア・テンポ

 相手を大切に、暖かく、慕うのが愛で、相手を自分のものにしたいと思うのが恋なら、これは紛れもなく後者。
 あまりにも醜く、強く。


「先生、青島先生から預かってきました手紙です」
「ああ、ありがとう」
「ついでにお茶を淹れますか?」
「ありがとう。そのへんに貰い物の大福があるから」
「…和菓子は苦手です」
「そうかい。じゃあ、わたしが一人でいただこう」
「醤油煎餅の一つでも隠してないんですか」
「子供か、きみは」
「子供ですよ」
「───…また、声楽の誰だかとでもやりあったのかい」
「え? いえ? どうしてです」
「いや、きみが、…」
「やりあったのは弦のやつですよ」
「…オケの子達とは仲良くするようにと言っただろう」
「おかげでまともな音を出すようになりましたけど」
「やりこめて、なんの軋轢も生じないなんて事は、この世には無いよ」
「……この前は鼻の一本二本へし折れとおっしゃいましたが? 先生」
「それとこれとは話が別だ」
「…出来る限りは、仲良くしますよ…」
「ああ、そうしなさい」
「けど、…ああ、チェロのあいつは良かったな」
「チェロなら、田丸くんかな」
「いえ、もっと顔の整ったやつでしたよ。藍沢とかなんとか」
「藍沢くんか。…あの、生意気そうな」
「そうですか? 俺は結構好きですけど」
「……そうかね」
「理性的で、でも情熱を知っていて、好きですよ」
「…そうか」
「………先生?」
「ああ、…いや。
…さらっておく譜があるから、一人にして貰えるかね」
「───はい」

 これは恋だ。
 なんて醜い。





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あきゅろす。
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