片恋●笑顔は伝染る
笑う事を彼は知らないように思えた。
白っぽい金髪。尖った黒の視線。その唇が吐くのはぶっきらぼうな言葉。服はいつも黒を好んで着て、他人を拒むような雰囲気を常にまとっていた。
学生とは思えない位に音を操る彼を、どれだけ褒めてもにこりともしない。平坦な声で
「ありがとうございます」
と言うだけだった。
今、堂々と一曲を振り終えた彼はステージを降りて花束を受け取ると、不遜で、けれども猛々しく鮮やかな笑みで応える。
そして老いた私の手を、彼は取る。
私はただ彼を独占したいが為に、微笑みながらその手を振り解く。
彼はその瞬間、私の為だけに微笑する。
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