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東欧より愛を込めて




 おやすみのキスをさせてくれないか。
 最後の、永遠のキスを。


 トランシルバニア出身の彼は、この世界じゃトップエリートだ。オーブントースターも扱えないお坊ちゃまは、いつもおとなしく俺が起きてくるのを待っている。
「いつものことだが、ミスム、大口を開けて欠伸をしないでくれ。良い顔が台無しだ」
「俺の顔がどうなろうと俺の勝手だろ。飯はいつものでいいか?」
「ああ」
 最近の彼のお気に入りは、牛の血に生クリームを混ぜたフレンチトーストだ。微妙な赤褐色の液に厚めに切ったフランスパンをどっぷり浸して、バターをひいたフライパンで焼く。
 夜食にするのもいやな料理を作ってから、俺はバイトの為に身なりを整える。
「…私がいくらでも食わせてやると言っているのに…」
 死んでも使い切れないだろう財産持ちのお坊ちゃまは、玄関で俺を見送りながらいつもの台詞を呟く。
「じゃあな、あんまふらふらすんなよ」
「わかっている」
 その割りには、週に一度は近所のバーで酔い潰れていると俺に知らせが入ったりするので、俺は奴を信じない。




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