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ATLANTIS



 残雪が水平線に沈む太陽に薄く橙に染まる。黒一色で身を固めた男は、窓硝子に額を預けてほんの少し深い息を吐いた。
「…あなたを師と仰いだのは、私の唯一の汚点かもしれません」
 背後からの呟く様な声に、男は酷簿な笑みを浮かべ、振り返る。
「だから、言っただろう、お前がここに来た、あの日…」
 今更だな、と小さく笑った男に、青年は薄紫の目に反抗的な力を込めた。
「もう遅い」
 男はどこか楽しげに言い切って、また、窓に額を寄せる。
「始まっている」
 破滅が、と、男は唇だけで呟いた。


 西の海に浮かぶ島があった。
 島には多くの民が住み、金の髪と朝焼けの海に似た美しい紫の瞳の王が、国を治めていた。



「俺は何度でも生まれ変わる。この国の終焉を見届けるまで」
 色のない薄い唇が、目の前に立つ相手にだけ届く声を発する。
 その黒髪がざわりと蠢く様な気がして、萩はわずかに身を引いた。闇がうっそりと笑う。
「萩、お前にも、その権利をやるよ」
 いっそ甘いくらいに掠れた声。萩は目を細めて
「闇、この国に終焉などない」
 そう、精一杯冷静を保って口にする。けれど自分を見つめる黒々とした瞳に、背筋がじんと痺れる様な気がして、萩は俯いた。
「…あるさ」
 物事にはすべて終わりがある、と闇は薄い笑みを浮かべたまま囁く。
「その終わりの日に、お前は俺と共にある」

 まるで愛し合う者達の様に、近くに。








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