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Dolce



「25番…と」
 免許更新の手続きを済ませ、受け取った番号札と机の番号を見比べながら、滝川は狭い通路を進んだ。
 二つずつ並んだ机と椅子が整然と並ぶ部屋。小学校の教室を彷彿とさせる講習室は、なんとなく非日常だ。
「あ、すいません」
 肘が少しだけ触れて、滝川は謝りながら何気なく隣りの席に目をやった。
 一瞬、息を呑む。
 長めにきちんと整えられた栗茶色の髪が、ほっそりとした白い首筋に淡い影を落としている。薄幸そうな雰囲気のある人形のような顔。唇は薄く、ほんのり色付いた桜色だ。
 そして、ふわりと漂うのは───
「…甘」
 滝川の呟きに、黒目がちな目が見上げてくる。
「あ、いや、」
 と、みるみるうちにその白い頬が赤く染まった。え、と滝川は慌てる。
「すみません」
 蚊の鳴くような声で謝られて、滝川はますます慌てた。
「いや、謝らなくても…」
 長谷と名乗ったその青年は、聞けば洋菓子店のパティシエなのだと言う。
「だから甘い匂いがしたのか」
 へえ、と感心した滝川の隣りで、長谷はまだ少し上気した顔を隠すように俯いた。






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あきゅろす。
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