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過日の庭


 先見の夢渡りが夢を見ないというので果津は呼ばれた。
 果津は夢喰いのバクを飼っていたので、半分は自分が疑われているのだろうと少し自虐的な気分になりながら、屋敷の扉を叩いた。
「いらっしゃいませんか」
 誰も出てこない。
「どなたかいらっしゃいませんか。果津と申します」
 少しばかり声を張り上げたが、ネズミ一匹現れない。
 果津はやれやれとバクと顔を見合わせると、庭の方へ回ろうと、開けた戸を閉めた。
 バクが陽の光に眠そうに欠伸をする。
「お前、ゆうべはいつ頃寝たんだ」
 朝方に、とバクはむにゃむにゃ答える。果津はその小さな頭を軽く叩いた。
「今日は出かけると言ってあっただろう」
「おれも連れていくとは聞かなかったんでね」
 生意気な事を言うのはバクの常なので(実際余所のバクも常に生意気な口をきく)、果津は笑い顔のその横顔を睨む。
「……どなたです」
 手入れの行き届いた庭で、果津はそう声をかけられた。縁側に、不思議な髪の色をした青年が立ってこちらを見ている。
「これは失礼を。どなたもいらっしゃらないかと…」
「…家の者は急な葬式にでかけました」
「まあ、葬式はいつも急なものですから」
「…………」
 青年は黙り込んで、小さな子供の姿をしたバクを見つめている。バクは眠そうにまばたきをすると、黒かった瞳を琥珀に変えてみせた。
「やめないか」
 気を抜くと本当の姿が現れてしまう。バクは小さな牙を見せて、
「夢のにおいがする」
 と、そう言った。







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あきゅろす。
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