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「もしもし、俺、中原やけど、覚えてる?」
 休日の午前中にかかって来た電話の相手は、標準語に変なアクセントの混じる調子でそう言った。



「───ああ、」
 高校の時の、グループにいた。中原はサッカー好き。でも、顔は思い出せない。
「久し振り」
 仕方ないだろう。もう十年が経つ。
「いや、良かった。覚えててくれて」
 一瞬、最近はやりの詐欺を思い出す。金の話が出たら即座に切ろう。
「日曜の朝なんに、悪いな」
 そうだ、こんな風に適当な日本語を喋る奴だった。
「いや、…で、何か用か?」
 あくびを噛み殺す。土曜に一週間分の洗濯をして掃除までしたものだから、今日は昼過ぎまで寝ている予定だったのに。
「厚田が、死んだんだよ」
「…厚田?」
 顔も名前も全く思い出せない。沈黙を何と取ったのか、中原はわざと業務的に続けた。
「で、明日葬式なんでさ、来てやってくれると」
「あのさ、中原」
 思い出せない。
 クラスメイトだったのかすらわからない。
 戸惑うように言葉を切った中原は、ん、と小さく言った。
「───悪いけど、」
 罵るがいいさ。
 どうせ俺は他人に興味が無い。
「厚田って、思い出せないんだ。仕事もあるし、行けないから」
 中原は暫く黙って
「そっか。仕事───仕事、そうだよな」
 独り言のように呟いた。
「………悪いな」
「いや、…急だったしな」
 俺は、二十歳の頃にもこうして知り合いの葬式に出なかった。
「…じゃあ」
「ああ、悪いな、突然」
 俺はそれには答えずに、通話を切った。
 枕に頭を埋める。
 目を閉じた。






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あきゅろす。
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