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うたひめ



「歌は歌えるか?」
 乾ききった喉は、音を忘れていたが、男の低い声に必死で頷く。
「自由に、なりたいか?」
 自由。それが何だったかすら思い出せない。
「お前をここから出してやる」
 悪魔が囁くような、低い声が湿った石壁に響く。
「代わりにお前は歌を歌うんだ」



 少年のような細い身体から、甘い花びらを巻き上げる荒々しい風のような声。
 退廃的に震える甘い歌声と、逆巻く嵐のような歌声が、彼の身体には住んでいた。
 少し長めの髪は白に近い金。生白い肌に、目隠しの赤。
 全体が繊細で小作りで、歌う人形かと尋ねる者もいた。
「違いますよ」
 薄灰色の目をきらめかせる男が答える。
「ジェイ」
 目隠しのまま、慣れた動きで椅子やテーブルを避ける。枝のような身体にひらひらと服の裾がまとわりつく。
 差し出された手を、男がとる。
「ルジュ」
 名前を呼ばれて、安心したように微笑んだ。









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