将軍と軍師
背中に当たった冷たい床の感触が、全身にざわりと寒気を広げる。押さえられた喉元が苦しくてサイは細い息を吐いては吸う。
「──お前は、誰のものだ?」
ユウが低い声で言った。サイを見下ろす暗い色の瞳がいやにきらめいて見える。
サイは薄い唇を震わせながら開いて、狭まった喉から
「わたしは、──あなたのものです」
と、かすれた声で答えた。
「あなたのものです、──将軍」
サイの答えに、ユウはそうだ、と呟いた。
喉元はまだ軽く締め付けられて、大きなユウの身体に馬乗りにされている。そんな異常な事態だったがサイはぼんやりと、
ああ、心地良い
と溜息を吐いた。
「俺を裏切るのなら、死を覚悟しろと言っただろう」
「わたしが、…わたしが何時、あなたを裏切ろうとした…?」
「小賢しい隠し事はやめろと言っただろう」
「違う、あれは」
「黙れ」
この王は、その身に渦巻く怒りが何か知らないのだ。
しかしサイはそれを笑う気はない。
「お前は俺のものだ。俺だけに仕え、俺だけに従え」
シュミレーションを離れても、ユウはサイを独占した。
子供のような、しかし強烈な束縛。
灼けるような嫉妬に任せて、ユウはサイを支配した。
「言え」
身体の芯が痺れる様な低い声。サイは無意識に目を細めた。
「──言え」
いっそ口付けてくれたらと思うほど近くに、ユウの唇がある。血の契を交わした薬指が熱を持った。
血の滲んだ指先を、あの唇に当てた。
官能的な儀式。
ああ、とサイは溜息を吐いて、ユウに手を伸ばした。
引き寄せて、唇が触れると、サイは迷いも無く舌をさし出した。きつく吸われると目眩が起きる様で固く目を瞑る。
互いを貪る様な口付けが、サイを高ぶらせた。唇が離れると、荒い息を吐きながら甘くかすれた声で言う。
「わたしは、あなたの──
あなただけのものです」
灼く様な視線を感じながら、サイは新たに与えられた口付けに溺れていった。
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