Joint Ownership
「セフレでいいよ」
微笑する唇が、あっさりそう言った。
「おれ、甲斐の事好きだから、セフレでいいよ」
婚約指輪を渡した夜の事だった。
納坂との付き合いは大学にまでさかのぼる。
三年時のゼミで一緒になった納坂は綺麗な顔をした男で、男女問わずモテていた。
その納坂が何を血迷ったかゼミコンパの帰り道、始発を待つ人気の無い駅のホームで俺を好きだと言った。その場でキスもした。
酔った冗談だと思っていたら、納坂は本気だったらしい。次の日から納坂は友達全員に
「おれ、甲斐と付き合う事にしたから」
そう言って回ったのだ。
納坂の愛情の深さに目眩をおぼえた俺は、それから五年も目を回しっ放しで、気付けばこんな事になってしまった。
俺は確か一年前に別れを切り出したはずだ。
「彼女でもできたか? 大丈夫、おれ、仲良くするから」
それから会うのは二週間に一度。
「清楚っぽい子だよな。……あの子、こんな事してくれる…? …なめたりしゃぶったり上に乗ったり、さ…」
納坂は彼女を知っているし、彼女も納坂を知っている。俺が引き合わせて、納坂は「友達」と紹介した。
「息抜きだと思えよ。おれがいいって言ってんだから、いいじゃん」
そうか、と納得した自分に思い切り突っ込んだ。
そうか、じゃないだろう。
「甲斐、な、……キスして」
違う。
駄目だ。
「駄目じゃない。……甲斐」
「別れてくれ」
「だーかーら。セフレでいいって」
「違う。俺はもう、お前とは寝ないことにしたんだ」
「───…おれに飽きた?」
「…は?」
結婚しよう、と俺はつい二時間前、彼女に言った。その足で、二週間ぶりの納坂に決別を突き付けようとしたのだ。
「おれに飽きた?」
「…いや、じゃなくて」
「甲斐、さっき『寝ないことにした』って言ったよな」
綺麗な顔っていうのは、こんな時有効的だ。少し唇を尖らせて、潤み始めた目で見上げる。
「『寝たくない』じゃないんだ」
俺はひたすら黙り込むしかなかった。
「な…、……まさと」
甘ったるい空気で唇を寄せられたら、それまでだ。
あとは溺れるしかない。
「……あ、もしもし、おれ。うん、聞いたよ」
電話の向こうで共犯者はくすくす笑う。
「ええ? いいなあ。おれもプロポーズされたいよ。
キスも、腰の振り方も、教えたのはおれなのに、茅子ちゃんてば、おいしいとこだけ持ってくんだもんなあ」
素敵なダイヤよ、と言われて納坂は隣りで熟睡している甲斐の耳を軽く引っ張ってみる。
「じゃあ、また今度お茶でもしようよ。うん」
じゃあね。
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