箱庭
赤いのをひとつ。
青いのをひとつ。
どピンクのネオン。
「ミーニャ!」
日田方がダンスホールで声を張り上げて手を振る。俺はビールを受け取って席に着く。
「ミニャ、無視すんなよォ」
日田方ははあはあと胸で呼吸しながら言う。カクテルライトがひどく眩しい。
「あ、それともナニ、もうやっちゃった?」
日田方は両目で色が違う。右目は普通の黒で、左目は灰色。
薬の副作用が、左目を灰色にした。
「俺は薬はやらない。知ってるだろ」
「なんだよ、相っ変わらず。んで、持ってきた?」
必要以上に体を近付けて来る日田方を肘で押し退ける。
シャツの胸ポケットから、小さな紙包みを取り出すと、日田方の目の色が変わった。───本当に変わるから気持ち悪い。
灰色から、薄い黄色、それから赤へ。
「ミニャ、早く早く」
「焦るなよ」
紙包みには色々印が付いている。
俺は赤の印と青の印の包みを、一つずつビールに入れる。
中身は、赤いのは粉で青いのは粒。ビールにマドラーを突っ込んで五回、右に混ぜる。
ふへへ、と日田方が笑う。
「魔女みてェ」
右に五回混ぜるのには意味がある。混ぜ過ぎてはいけないし、これ以下でもいけない。
「早く早く早く」
ビールを差し出すと日田方は一気に流し込む。
ぷは、と一息ついて、日田方は目でも痛むのかぎゅっと眉間にしわを寄せた。
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