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ブルース

 暁皇陸仁陛下は、去る七月十弐日、喜志の邸にて開戦宣言をなされた。
 これにより、十参日未明、暁国はマシパの海を越えた大国、白国と戦闘状態へ突入する事と成った



「聞いたかい、あの話」
 薄暗い───というよりは闇に近い地下酒場で、店主が、麦酒を杯に注ぎながら言った。
 顔を上げた男の、銀に光る目に、細い蝋燭の火が揺れる。
「薄絹通りの話だよ」
「ああ…殺人鬼の」
 答えた声は、平坦で、掠れて低い。杯に寄せる唇の端に、歪んだ微笑。
「もう五人やられてるって?」
「そうなんだよ。しかも、下手人は男だって話だ」
「男?」
 銀色の目が細められて、男はますます歪んだような笑いを浮かべた。店主は男に顔を寄せるように屈んで、甘い薬の匂いをぷんぷんさせながら囁く。
「気を付けた方がいいよ。旦那は男前だから」
 それを鼻で笑い飛ばして、男は杯に残っていた洋酒を喉に流し込んだ。財布から札を何枚か抜き、店主に渡す。
「また来るよ」
「お気を付けて」
 天井の低い店内で、男は背中を丸めて歩く。いやに背が高い。
 ありがとうございます、と見送った女給の一人が
「店長、あの方どこの方なんです?」
 頬を薔薇色に染めて訊いた。店主は肩をすくめて意味深長に笑う。
 男は階段を上がり、月光が照らす路地裏に出た。曲げていた背を伸ばす。
 踝まで届く長い外套は、夜闇に紛れる黒。足許を固める靴は、厚い革で脛をすっぽり覆っている。
 と、突然の風が、外套を大きくはためかせた。
 まとう軍服。その胸に光る幾つもの徽章。黒銀に光る護身用の短身銃───
「あの方は、暁国陸軍特殊部隊司令官、」
 日に焼けた肌に、前髪だけが長く後ろは刈り込んだ黒髪。
 そして、その瞳は凍り付く刃の如き銀。
「高間原 勝景様だよ」





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